第二十二話 シキガミ
一部は肉さえも引き裂いて、一つ二つは、二の腕と
鈍い痛みが腕と腿に残り、
「――」
音を立てず呼吸を
「
「ふふふ、
ニタリと笑う
腕の中に残る違和感。正体不明の
腕を、揉む。揉む度に異物が握る右手から逃れるように
「…………む」
「もう少し、粘ってほしいものでしたがね…………」
博士が一枚の形代を選び取る。その
どうやら、特別製のものらしい。
「それではこれで終わりといたしましょう!!」
追い風に乗った朱墨の形代は、一直線に一刀斎の元へと向かう。その目と、一刀斎の目が合った。博士の式神は、一刀斎の眉間を見据えている――――!
「
博士が式神へと
――が。
キィィィン!
「…………っ!」
「――これが呪か。ありふれているな。
その足元に転がったのは、二つに
固まる博士を尻目に、腕の
「その手元を隠すほど長い袖。そこに石を溜めていたか。そしてこれを、お前は
式神に目を奪わせ、自身から意識を
腕に感じた違和感に、身に覚えがあった。
それはかつて
もしやと思い式神だけでなく、
その時見えたのだ。今まで揺れることがなかった
「弾いたのは、指でか?」
そこから人の身を
果たして指で、可能なのか――。
「ええ、指ですよ?」
「っ」
明かすべきでないからくりだろうに事も無げに。あっけらかんと言い
思わず
「種を明かされたなら
その素振りに、己が
積み重ねた年月に思う
やはり
だというのにあの博士と言う男は、たやすく明かす。
手の内を明かすという程度ではない。もはや「手の内から捨てる」と言っても良い。
「不思議そうですね? ですが
「とはいえ」と博士は言葉を続ける。
「――種を知られたからには、生かしておくわけにもいきませんがね!」
「っ!」
博士の袖がわずかに揺れ、同時に放たれた五つの礫。
屈んで避けつつ当たりそうな弾は剣で
両の手の内に忍ばせておき、
しかし一刀斎は一つ一つを切り落としながら、一歩一歩着実に迫る
いずれ
「弾切れはありませんよ」
同時に複数の弾を放って一刀斎の足を止めた瞬間、屈んで路傍の小石を拾い上げた。
乾き固まった道、人の
ここでは不利――ならば。
「ちっ!」
一刀斎は舌打ちを打って、
「なるほど、そうしますか!」
竹林の地面は竹の葉が散らばる柔らかい大地。転がる石も大きく指で放つには大きい。
そしてなにより、
「これは
ゆるりと、一刀斎を追って竹林へと入り込む。
不気味な面を
「ぐ、うん……!」
立て膝になって腿に食い込んだ礫をくり抜き、布で
あの時ダメにした羽織を捨て置かず回収してよかった。裂けばこの通り、包帯代わりの手拭いにする事が出来る。
懐から薬入れを取り出して、黒く角張った薬を噛み飲む。これをくれた
立ち上がって二度足踏みする。
「さて――」
ここは
「いやはや、思ったよりも狭いですね? 確かにこれでは指弾は使えない」
それでも博士には、
一切の
――まだなにか、隠している。一刀斎は
その距離
しかし。
「
竹の合間を縫いながら身の
竹に阻まれながらもその速度は落ちることなく、蹴られた竹の葉は遅れて散り飛ぶほどの速度。
その
博士が気付いた瞬間には一間過ぎて
甕割の
「なるほどこれは恐ろしい!!」
「なっ……!」
しかし刃を振るったその先に、博士は
そして。
「足運びが自慢なのは、そちらだけではありませんよ?」
ゆらゆらと竹を縫う博士の姿は
前後左右、そして斜め。自在に動く博士はしかし、足などないように気味が悪いぐらいになめらかに動く。そして、視界が開けた瞬間。
「くっ!」
礫が飛んでくる。博士は右へ抜けたと思いきや左に戻っており、直進と思いきや左右どちらかにズレている。
今まで、見たことがない
瞬く間に
「陰陽術には
博士が行ったそれは、
その根幹にあるのは、間違いなく戦いのためのもの。それも自分らの
およそ戦いから遠く掛け離れているだろうはずの
「お前はいったい……なんだ?」
「なんだと
博士の姿が、再び揺れる。
視野を広く取り、
「ッ!!」
「――――陰陽師ですよ」
完全に振り下ろしきる寸前に、一の腕の真っ芯を完全に抑え込まれる。ただ、
一刀斎の目は、心髄の察知に遅れてその影を掴んだ。博士は既に、自分の懐へと潜り込んでいる。
距離を取ろうとしたその刹那、博士は空いた手を、一刀斎の腹へと当てる。
「
「ぐ、がはぁっ……!?」
一刀斎の体が、まるで毬のように吹き飛ぶ。
ただ、手を添えられただけで――――。
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