第六話 武昧の怪物
二つの
その名は
「まだ、来ないねえ」
「……っ」
悲鳴を上げれば、潰される。少年は口の代わりに、まぶたを大きく開かせた。奥歯がガチガチと鳴るのを止めたい。止めようとして力をいれたら、余計に奥歯が音を鳴らした。
牛童子は
村人たちは、ひたすら
あそこまで
だが、
自分達のことは自分でなんとかすると、
それほどまでに牛童子は、
どんなものだろうが乗り越えてやると
しかし、あそこまで蔑ろにしたのだから、あの男は、牛童子が求めるあの武芸者は、決してここには──。
「童子と聞いていたが、なるほど、
村人たちは、同時にそちらを振り向いた。
東の川から戻ってきた、黒の
逃げていった男たちが言っていた。確かその名は──
「
「おー、やっと来たか。良かったねえ、潰されずにすんだよ」
「ひぃ……!」
牛童子がその手を離すと、
戦いの気配を感じた人々は、
「おれを見下ろす奴と相対するのは二度目だな」
そしてその一人も、
「上には上がいるんだってことが分かって良かったね。たぶん、今から会う
顔の
平然と他者を踏み抜くような。ハエを
あの笑顔は元々の「顔」だ。一刀斎が日頃から
「ならばお前が行ってこい。もしも閻魔に勝ったなら、ましな地獄に行けるやもしれんぞ」
「武器なんかに頼る君なんかに、ぼくが負けるわけがないじゃあないか」
はっはっはと、
牛童子は武器を構える一刀斎に対して、なんの恐れも抱いていない。全ての意識を己の内にへ向けている。
牛童子の肉体が、ミシリミシリと音を立てているのが分かる。全身を使って力を
隠れた村人たちが、
さなか、誰かがようやく、口に
「むんっ!」
牛童子が、蓄えた力を
その巨体に見合わぬ
でっぷり肥えているようでいて、牛童子は内に優れた
「
しかし一刀斎とて
勢いを殺すため、
「ぬうぅうん!」
「ッ!」
牛童子は勢いを弱めることなどせず、よりいっそう屈むことで、その一太刀を
一刀斎はとっさに転じて飛び退くが、すれ違った
あのまま
なにより。
「
あの牛童子は、刀を相手に
刃を
「大した思いきりだな」
「ぼくはこの体を信頼しているからねえ。刀なんか使う君には、分からないだろうけどね」
牛童子はその笑顔のまま、再び腰を落とす。だが今度の笑顔には意味はあった。
それは一刀斎を含む、「武具」を
「ずいぶんとまた、武器持ちを
「そりゃあそうさ。だって君らは弱いんだもの」
「……ほう?」
弱い、その言葉に一刀斎の眉尻がピクリと跳ねた。
「だってそうだろう? 武器を使わなきゃ誰かを殺せないなんて弱い体じゃあないか。でもぼくは違う。ぼくは素手で人を殺せる。手で軽く握っただけで人は潰れる。叩いたぐらいで人は吹き飛ぶ。蹴ったぐらいで、口と肛門から血を吹き出す。武器を使ったら、「ぼく自身が強い」って
牛童子が腕を広げて見せれば、それはまるで、巨大な角をこちらへ向ける
なるほど、あの腕が突き出されれば骨どころかすべての
「……そうか、それが貴様の「
「……うん?」
今度は、一刀斎の言葉で牛童子が
──その
天下一を目指しながらも、
「なにをいっているんだ、君? それがもなにも、それが「武」だろう? 武術は結局、人を殺す技を
──迷いがない。
「
「……え?」
バッサリと、切って捨てた。
「別に貴様が、武をなんだと思おうが勝手だ。だが、貴様の
一人は、自由気ままに飛び回る
一人は、
一人は、
いや足りぬ。今まで
「武は人殺しのためのものではない。己の流儀を
武がやることは、たった一つだけで良い。
「武は、
人という言葉すら、あの牛童子には似つかわしくない。
「殺すことを目的とした
「……黙って聞いていれば、腹が立つなあ」
今まで
「もういいよ、説教は嫌いだ。今すぐ、
「来い
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