第三話 月白
──その
ゆるやかな
女だというのに、
一刀斎は思わず目を
この女は、まるで
いや、それはとかく。
「す、ま──」
「
いや、そうじゃない。すまんと言いたい。と、思ったが、素晴らしいといったのは、一刀斎ではなくて女の方。
はてと思って今一度女を見てみると、目は
その小ぶりな
「な、なに?」
「素晴らしい体だ!!」
お
というより、
「まずこの
目の前まで
「おい
──今までと違う意味で、一刀斎は動けなくなった。
「この腕……なるほど、
声は女にしてはやや
「腕以外の
たしかに今、一刀斎は裸をこの女に見せている。だがしかし、この女は、それ
女は
「この
女は、
あと
「この
ニコリと、首をかしげながら
顔が赤いのはきっとそのせいではない。
匂いどうこうと言うが、鼻孔をくすぐるのはこの
薬のような、苦々しくも、どこか甘い香り。
「では、最後に」
女が、またも屈みこんだ。今度はなんなんだと、どこかまたあの
己の
「取るぞ」
「──は?」
「おお……これは、すごいな。
「立たない方がおかしい」
ようやく出した言葉がそれか。と、心の中で己を
もうやめろだの、いいから出ていけだの、言うべきことはあるはずなのに。
……いや、理由は分かる。分かってしまう。なにも、ここまで
女の方はというと、一刀斎の素直な答えに、その
この女の顔も、十分赤い。
「いや、失敬、わたしも初めて見るのでな。では」
では。では? ……ではとはなんだ。
女の手が、ゆっくりと近付いてくる。
五本の指が、さっきまで己の体を撫で回した指が、
「はーいそこまで!」
あと
──
「ごめんなさいねー
「あ、ああ」
「桃さん、わたしはあくまで……」
「言い訳はだめですよ。
自分より体格の小さいはず桃に、女はずるずると風呂から引きずり出されていく。
「ああ、そうだ。忘れるところだった」
桃に
「
「はいそれはまたあとで!」
言い終わる前に、桃にピシャリと
なんだったのだろう。と、
月白は最後に言っていた。自分にとっても、深く
「天下、一」
「
よほど
「姪……あの
一刀斎はあの
すると、まるで見ていたかのように桃がやってきて、この
「うむ……あれはかなりの
「なら、兄に
出て来たのは、
手には黒い
「さて、
「
「またその話ですか……。私は
「またお前はそのような…………」
「――――たしかに、月白殿は医学の
「さっき
「うむ、見ると触れるは相手の
「…………いや月白、このお
「……そろそろ、いいか? おれは
天下一。月白が自身も口にしたその言葉に、大きく目を
「お待たせしましたー!
縁側に出る
「今日は久しい顔もあるし、初めての顔もある。
「お、飯が出来たかあ?」
二の間の
「あ、松軒さん。まだご飯があるので持ってきて下さーい」
「……
前に運ばれた膳を見れば、
これは
一刀斎は、柳生邸の
一刀斎はあまり
「やあ」
声のする方を見てみれば、夜に溶け込みそうな濃藍の小袖に、
「…………月白殿か」
「月白でいいよ。
白い
「酒か……師にまだ
京にいた頃に何度か
「ふむ、なら
月白が
ポカンとする月白が、「どうした?」と、
目をやれば、
一刀斎が知る黒は、
しかしこの黒は、
「……女には、良い思い出がなくてな」
「その年でもう
からかうように笑った月白は、しかしその身を戻す。二人の
「
ことり、と、月白は酒を
取るのを
……
「…………
「
月白は自身でも一杯注いだが、一気には飲まない。
一つ一つのわずかな
「……女には、良い思い出がないと言っていたな?」
「
「構わないさ。ただ、君に
月白が、一刀斎に二杯目を注ぐ。
「……分かった。少し、長いぞ。印象深い女が、おれには四人いてな――」
秋の夜は、長い――。
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