第二話 斬るべきもの
太刀風に散らされたかのように秋空に雲は一つ無く、
この
しかし当の新左衛門は
「
一刀斎の素振りを見て、新左衛門は
一刀斎の振り下ろしはごく
「あれであいつ、自分のことを
「いったいどれほど大きい酒甕にいる虫なんだい、それは」
「む? どうかしたか?」
なにやら
なんだか
それから
「それほどの
「この振り下ろしだけは、
「おれにこの振り下ろしをおれに教えたのは、おれの
「名のある
「知らん」と、一刀斎は
「人を
「この
「それは、
「もしかしたら、
「まあ、おれが相手にしていたのは木なんだが、
今では一刀斎の
「
「──
一刀斎のその訊いに、松軒は苦笑いをして見せる。
「なにもかにも、その振り下ろし。心法の
心法とは、
一刀斎が、
三つ目は、その
四つ目は、心に
だが、まだまだ心法は世にまだあるらしい。
「
いったいなんだと松軒に
あの穏やかな口ぶりではなく、
「──ねはん、じゃくじょう?」
「一刀斎くん、
新左衛門の顔は
その
新左衛門に言われるまま、彼の後をついてどれほど
松軒には「
「いったい、どこまでいくんだ?」
「そろそろ
そこは、
まるで、
──その、木ばかりの山林のなか、それは
そしてなにより
「新左衛門殿、これは──」
「僕が、これでやった」
そういって新左衛門が抜いて見せたのは、
「その剣で、か──?」
新左衛門はあの
「少し、
いわく。
この山で
しかし、
思考さえも出来なくなった、その瞬間に
――そして、気付けば朝になっていて、目の前には、この二つに
「もしかしたら、天狗はただの
「──
「本当に斬るべき、だったもの?」
おうむ返しに
「きっとその
すべての人間がそれぞれ持つ、斬り越えるべきなにか。
斬った時に残る、その人間の本質。
「あらゆる
この世の、あらゆるものを斬り落とす利剣。それは、つまり。
「先程言っていた、理想の剣」
「ああ、遥か遠く、そして限りなく近い、理想の剣さ」
ただし、と新左衛門は言葉を続ける。
「むやみやたらとこれを目指すのも違うと思うんだよ。これは理想にするものじゃあない。理想を見つける過程で、理想を追い求める道程で至る場所。だから」
「──その内、見つけるさ」
新左衛門が言わんとしていることに、
「剣の道なんて、遥か遠い道を行くものなのだから。明日起きたら
一刀斎の言葉を
──ああ、良かった。この少年は、僕のように、
「──そろそろ、戻ろうか。秋は日が暮れるのが早いからね。しかもここは山の中だし! 急がないと本当に
「ふむ、
「僕はあるけど二度とは
「
柳生の郷、新左衛門の屋敷に戻れば、桃の花がパッと咲いた。
気に入っている
帰ってきた頃、夕日はまだ
「あらあら
桃の、思わぬ提案に一刀斎は
風呂など、今まで入ったことがない。いつも水をサッと被るぐらいであったし、そもそも風呂など、そんな高級なもてなしを受けるような立場にはなかった。
「風呂があるのか、この屋敷には」
「まあ一応、大名に仕えてる身だからね。もてなすために必要だからあるよ。」
「しかし、入ってもいいのか」
「いいのさ。実は今日明日、大事なお客が来る予定が有ってね。それも国外からの旅で、僕にとっても大切な人たちでもあるんだよ」
それこそ一番をもらって良いものかと思うのだが……と一刀斎はうむと悩む。
「じゃあ、加減を見てもらうってことで入ってくれないかな。僕はそのお客と一緒に入って話をしたいからあとで良いよ」
「ぜひぜひ、その様子なら入ったことはないのでしょう? 人生で一度くらいは経験しておくべきですよ、一刀斎さん!」
まあ確かに、風呂は魅力的である。入りたくないと言えば、嘘になる。
「わかった、甘えさせて貰う」
否定する、理由がなくなった。自分はつくづく、
「──これが、
ヒノキだろうか。
入り口の
「……ぁぁ……これが
今まで、これほど気の抜けた声を出したことなどあっただろうか。
汗によって浮き出た
なるほど、これは
とりあえず、新左衛門や桃、そしてその
一刀斎は
──
「お
「おお
男の名を、
「いやはや、
「お
風呂、と聞いた道三は、「おお」とにんまり笑う。
「いつもいつも、柳生殿には湯をもてなしてもらいありがたい……実は、今回もあるかと思い、湯に入れると
「はっはっは、元気なお
「……はち、会わせる?」
新左衛門の言葉に、道三は
「ああ、実は
「彼。なるほど、若い男……」
道三は笑顔のまま。しかし、冷や汗をだらだらと
そこで初めて、新左衛門は道三の心を
「……曲直瀬殿? いかがなされた?」
「……いけません、いけませんぞ柳生殿ぉ!!」
勢いよく、まるで
「ど、どうしたのですか?」
「今日連れてきた者は……ここまで勝手に着いてきたのは……っ。
道三のその
風呂に、
「おや──
──
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