第四話 火炎、上洛
「
「フン、
「
「甲四郎!
「はいっ!」
「
今だ! と甲四郎は突きを放つ。だが、しかし。
「
「うわっ」
その突きに合わせての
「日々よくなっているな。
「ありがとうございまする、父上。ですが、まだまだです。一刀斎殿も、ありがとうございました」
「いや、構わない」
京に来てから二年が経った。甲四郎も背が伸びて、
「甲四郎は強くなっていると思うぞ」
「三条を制した一刀斎殿に言われると自信がつきまする」
去年の夏、一刀斎は三条の武芸者たちを下し、三条を制した男と呼ばれるようになった。
しかし支配するなど面倒なので、そのあとはたまに
また弟子になりたいという者も現れたが、まだ
弟子と言えば。
「そういえば、今日は
鞍馬流の達者である大野将善には多くの弟子がいる。将善の腕が治った今ではより盛り上がり、一刀斎に師事できないのであればと、代わりにこちらに来るものも居た。
食時が過ぎれば少しずつ人が増えるのだが。
「……もしや、一刀斎殿はなにがあるのか知らぬのですか?」
「世の動きには興味がないものでな……」
「ははは、一刀斎殿らしい。実は、今日は──」
「
縁側を駆けてきたのは、
「来た、とは?」
「
ニコリと
「それで、今日は何があり、誰が来ると?」
「今日は、
「
一刀斎は二条の大通りにいた。「
(
赤とは一刀斎が勝手に名付けた名だが、川の下流で出会った
目が見えず、
日々思い起こすことはあったが、一刀斎はあれ以来、会いに行くようなことはなかった。
赤と出会ったことで武とは何かを掴めそうで、掴めてからではないと会えないと、どこかそんな気がしていたのだ。
「見えましたぞ、一刀斎殿」
将善に声をかけられ、ハッとして正面を向く。
大通りを行く行列は、それは見事なものだった。
将軍家の
その行列が、ずっと果てまで。
人々は地面に膝をつくが、
通りの
行列の先頭が、前を行く。
「
(……いつまで続くのだ、これは)
長い。あくびが出そうだが、将善の
将軍が入っていたであろう
先を行った将軍
なるほどこれが、足利将軍家を支援し上洛までこじつけた
武芸者とはまた違う強者の気配に当てられ気を持ち直す。
そして、その尾張織田の一団の中心。
なるほどあれが、織田尾張守──
「──」
「――!?」
織田尾張守と、目があった。
大きく力強いその瞳は黒く燃える炎のごとく。見ただけで全てを
一刀斎と織田尾張守の目があったのはたった
「──殿、一刀斎殿?
ふと気づけば、行列は終わっていた。
おれは、呑まれていたのかとハッとして、思わず
「……将善殿、
「む……?」
一刀斎の
「
将善に、何者かが声をかけた。一刀斎と将善は、同時にそちらを
すると将善は、満面の笑みを浮かべ、己を呼んだ者を見やった。
「陣三郎か!」
「
「
下京にある大野屋敷にて、一刀斎は大野家
聞くに陣三郎は足利義昭公が京を脱した時から付き添っていたらしく、家族と再会するのは実に
そんな
陣三郎はみたところ、年は
しかし
「そいで、私らを助けてくれはったのが
「それから一刀斎殿は、
「なるほど……私の家族を助けていただき、
「
自斎の名を聞き、陣三郎は「あの方の」と目を見開いた。
「ええ、知っておりまする。我らを
どうやら師匠は本当に
「一刀斎殿も、若いながらかなりの
将善の言葉に陣三郎は「なんと」と
「おれはまだまだ修行の身、まだ強い者は世にはいる」
例えば自斎や、
一刀斎の言葉に陣三郎は深く感じ入ったようで。
「己をよく
陣三郎はずいと寄り、
「一つ、その胸を貸していただけませんか?」
その目は、
「では、よろしく頼みまする」
「いざ」
屋敷の庭先にて、一刀斎と陣三郎は
両者ともに
その立ち姿に、
ほれ見たことか。三条までを平らげたぐらいで胸は張れない。これほどまでの剣客は、三条でもそういなかった。
久々の強者との立ち会いに、一刀斎は胸を高ぶらせる。
一刀斎はその
「
「
しかし陣三郎は驚きつつも、
(まさか切り落とせないとは……!)
だがしかし、陣三郎の剣は切り落とせない。それどころか、一刀斎の剣を止めて見せた。それだけではない。この木刀から伝わる陣三郎の心は、自分と同じくなにか
「
陣三郎は刀の
一刀斎は後ろへ
だが陣三郎は刀をさっと切り下ろし、先と同じように下段を制した。
そして、そのまま。
「
その鎬を
(なんと)
続く切り付けを後ろに飛ぶことでかわした一刀斎は、口に出しかけた
一刀斎の剣が鎬をもって刀を
一刀斎の剣が
さきほど切り落とすことができなかったのは、鎬を使った
一つの
一刀斎の心は、乱れていない。中段
斬り懸かろう、とした瞬間、陣三郎の気配がやや変わる
「……一刀斎殿は、人を、
「少なくない」
その答えに、陣三郎は「そうでござるか……」と呟くと。
「
今度は、
いったいどこを打ってくるか。一刀斎は
「
一刀斎は、心の中に炎を浮かべる。意識するのは炎の
「
陣三郎の放つ
「なっ!」
一刀斎は一歩たりとも動いていない。しかし正しく一刀斎の真ん中を狙っていたその剣は中心を外れ、逆に一刀斎の剣が、陣三郎の
一刀斎の心は不動、しかし、炎のように自由である。
「──お見事。なるほどこの剣であれば、どのような相手でも勝てまするな」
「いや、そちらの剣が先に触れれば、逆にこちらが
「ありがたいお言葉でありまする。しかし、手前はまだまだ……もっと、強くならねばなりませぬ。天下一の
天下一の剣豪。その言葉を聞き、一刀斎の心臓が高鳴った。
──天下一の剣豪。それを目指すものが、己の他以外にもいる。
「陣三郎殿も、天下一を目指すのだな」
「剣を振るうものであるならば、無論のことでございまする。一刀斎殿も、もちろん目指しているのでござりましょう?」
「ああ」
「ならば、もう一つお願い致しまする。剣を振るってこそ、天下一への道は
熱く、穏やかな目を輝かせ、陣三郎は木刀を構える。
その熱意に応えるように、一刀斎も木刀を構えた。
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