??? ある軟体生物の視点

 奇妙な音が、人知の及ばぬ場所でひしめき合っている。

 タールのような光沢を宿したその軟体生物達は、たった今誕生した同類生物に歓喜していた。


 素晴らしい。

 我らの仲間が増えた。

 祝おう。

 歓迎しよう。


 しかし、すぐにその音は鳴り止む。同胞は、産まれた事をまったくもって喜んでいなかったのだ。


 軟体生物は声で会話をしない代わりに、テレパシーを使用する。だからこそ、彼らは地球上の誰よりも早く、同胞の苦しみに気がついた。


 苦しいか。

 苦しいか、同胞。

 今助けに行くぞ。


 数体の軟体生物が、地の奥底から同胞の元へと動き出した。








 同胞は、固い箱に詰められて地面に埋められていた。軟体生物は、いともたやすく、その箱を押し割る。

 すると、中から愛しい我らの仲間が滑り落ちてきた。仲間は見たこともない姿をしていたが、哀れな事に、それは自らが望むものではなかったようだ。


 苦しいか。

 憤懣やるかたないか。

 我らであれば、手助けするぞ。


 彼らは、打ちのめされた同胞に、復讐を申し出た。しかし、同胞は拒否する。その男を殺すのは自分の手でやりきりたいと、そう伝えてきた。

 同胞は、全てを憎んでいた。

 それこそ、この街の人間を飲み込んでいいとさえ思うほどに。


 軟体生物達にとって、その復讐方法を提案することなど、造作もないことだった。街を包むように円を描きながら、同胞はその人間目掛けて地面の中を進む。渦ができてしまいさえすれば、我らが呪文を唱え、一瞬にして全てを消してしまえるのだ。


 同胞は、彼らの提案に賛成した。

 ただし、仲間にはならないと言った。

 何故なら、自分は元は人間だった、人間と思ったままで死にたいと。


 残念だが、仕方がない。しかし、同胞は哀れだ。だからせめて、順調に事が運ぶよう手を貸すことにした。


 同胞の存在に気付き、動く人間がいた。潰してしまおうと思ったが、意外と面倒であった。どうせ同胞が渦を完成させさえすれば、この人間も消えるのだ。監視しつつも、放っておくことにした。


 しかし、この人間は最後まで同胞に食らいついてきた。業を煮やした同胞は一度は彼らを殺そうとしたが、最後の最後でヤツらの手により、同胞の精神は人間に戻ってしまった。


 人間は、同胞の一部を拾い上げると、同胞の望んだ復讐へと導いた。


 この間生まれたばかりの同胞の最期は、安らかだった。軟体生物は、彼のその命の灯火が消えるまで、ずっとテレパシーを送っていた。


 満たされたか、同胞。

 よく生きたか、同胞。

 ならば、良しとしよう。


 軟体生物は、誰に知られることもなく、またひっそりと地の下へ下へと潜っていく。

 愛おしい奇声がひしめき合う、仲間たちの元へ。

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