第3話 ターゲット接触
結論から言おう。
僕と三条は、一瞬で仲良くなった。
「え? このペン落としたんじゃないかって? オレのじゃないよ! でもかっこいいペンだな! 落としたヤツ困ってるだろうし、事務局に届けとこうか? え、一緒に行かないかって?いいよ!」
大体こんな感じだった。底抜けに明るく、いいヤツだということが短い会話の中でもわかる。煙草をやめさせる為に仕組んだ仲とはいえ、この件が終わった後も普通に友達でいたいぐらいだ。
「へー、景清っていうの。カッケー名前だな。イケメンだしモテるだろ。彼女いっぱいいる?」
「いっぱいいちゃダメだろ」
一人もいねぇよ。何なら最近フラれたわ。
「三条は彼女いるの?」
「いないな! オレの速度に誰もついてこれねぇ!」
「速度の問題なのかー」
三条は、ツンツンの癖っ毛と大きなツリ目な特徴的な男だ。あと声がでかい。
たまたま昼食時だったのもあり、この後も食堂でしばらく話すことになった。
さて、そうなると気になるのは例の煙草の話だが――。
大盛りのオムライスにがっつく三条を観察する。見る限りでは、煙草の箱などがポケットに入っている様子は無い。
どうやって話題を持っていったものか。考えながら窓の方に目をやった所――。
「ブフェッ!!」
「どしたの景清!!?」
口の中の蕎麦が殆ど出た。仕方ないだろ! 目をやった窓側の席に、見慣れたモジャモジャスーツがいたんだから!
なんでいるんだよ!
「……ちょっとごめん、三条。トイレ」
「あ、うん。ごゆっくり」
幸い、三条の位置からは見えにくいところにあのオッサンはいる。僕は彼の真隣に立ち無言で首根っこを引っ掴むと、そのまま食堂の外まで引きずっていった。
空気を読んで静かにしていた曽根崎さんだったが、外に出るなり不満を口にする。
「いきなり失礼じゃないか、景清君」
「黙らっしゃい! なんでいるんですか!」
「潜入捜査に決まってるだろ。離してくれ」
「こんな目立つ見た目で潜入捜査するヤツがいるか!」
「いるんだな、ここに」
「いるんだな、じゃねぇ!百円あげるからおうちに帰れ!」
「まあ落ち着け。せっかく合流したんだ、情報を交換しよう」
埃を払いながら立ち上がった曽根崎さんは、そう言って胸ポケットから手帳とペンを取り出す。情報も何も、さっきようやく知り合ったばかりなのだが。
「僕から出せる情報はありませんよ」
「そんなことはない。三条君はどんな子だった?」
「どうって……いいヤツですよ。落し物のボールペンを一緒に事務局まで届けてくれるような」
「おお、いいじゃないか。今回の件に限らないが、君の目から見て相手がどんな人物かという判断は、重要な情報になる」
「そうですか」
「この短時間でターゲットに接近し、その人柄までざっと把握する。やはり君は優秀だな」
褒められた。別に嬉しくないわけではないが、それを表に出すのはなんだか癪だったので、慌てて話題を曽根崎さんに振る。
「曽根崎さんは何かありました?」
「うむ。この煙草に関することなんだが」
曽根崎さんは別のポケットから例の煙草を出し、僕に渡す。煙草には、真っ黒なパッケージにシルバーの文字で【THE BLACK】と書かれていた。
「これがどうしました?」
「調べてみたところ、これはどうも一般的に流通しているものではないようだ」
「というと、誰かが個人的に作っているって事ですか」
「そうだ」
「あまり詳しくないですが、確か煙草の製造って日本では違法でしたよね」
「よく知ってるな。つまり、この煙草をどこから入手したか調べていくと、自ずと犯罪者に辿り着くことになる」
「それじゃ、阿蘇さんの管轄じゃないですか?」
「うーん、警察か。犯罪の根元は断てても、怪異はそうはいかんからな」
どうしたものかと大袈裟に首を捻る曽根崎さん。そうだ、これはただの煙草ではないのだ。警察に依頼した所で、下手したら被害が拡大する恐れもある。事前に食い止めるには、まず煙草の出所を突き止めないといけない。
――これ、僕に動けって言ってるな?
何かを期待する曽根崎さんの両目の上あたりを、拳で小突いた。
「わかりましたよ、三条から聞き出してみます」
「有能な助手で助かるよ」
「助手じゃないって言ってんでしょ。危ないと判断したらすぐ逃げますからね」
「それでいい。こちらでも色々調べてみる」
「まずはその不審者な見た目を何とかしてくださいよ……」
曽根崎さんは、全く意味がわからないと言わんばかりに片手を振ってどこかへ行ってしまった。自由だな、あの人。警備員に捕まればいいのに。
さて、僕は僕のやるべきことをやろう。
僕は、三条の元に戻るため、再び食堂に足を向けた。
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