143話 死ぬなよ

「モノリスが、星中に……?」


「さよう。つまりこれから私は、その確認をしに赴かなければならないのだよ。モノリス達の回収も同様に、な。だから君達と一緒には行けない」


 スヴァローグは、尚も寂し気にそう言った。


 以前の拠点を襲撃しにやってきたヤツよりも、遥かに強力なモノリス達が星中にばらまかれた。

 それが本当だとしたら、この星はいったいどうなってしまうんだろうか。


「くそ……どうせ今回も星の生物達は成長するんだろ? あんな……地形を変えるような奴らを倒したんだ……ただでさえ、環境がどうなるか分かんねえってのに……」


 これまでの星の生物達は急激な成長は、黒い機械達を倒したことがきっかけだった。

 そのトリガーを今回も引いているのだが、よりによって今回は、更に強力な2体を倒してしまっている。


「あぁ、そのことか。それなら心配する必要はない。実はもう、以前のような生物達の成長拡散は起こらないんだよ」


「そうなのか? 前に倒した黒い機械と違って、あの2体は別物なのか?」


「別物といえば別物なのだが……。変わったのだよ、エネルギーの行き先が」


「エネルギーの……行き先?」


「残っているオフィサーメンバー達は、これまでと違って、拡散したエネルギーを回収しているんだ。チェルノボーグとベロボーグが出て来た時点で予想はしていたが、二人が倒されても周囲の動植物に変化がないことで、私はそれを確信したよ。彼らはもう、この惑星グリスを終局へ導く準備に入っている」


「なんだよ……終局って……」


「君がここへ来た時と同じ景色のように、ガラクタが散らばるだけの星に戻すんだ。無機質で、それでいてひどく寂れた世界にな。動物も植物も、みな浄化してゼロに帰す。この星はそうやって、再生と荒廃を繰り返してきたのさ」


 スヴァローグは物憂げな様子でそう語る。

 大方予想はついていたが、星の生物もN2達と同じくリセットされるらしい。

 記憶を消されるだけなのか、存在そのものを消されるのかは大きな違いではあるが……。


「ゼロに……ってことは、植物を枯らせたり、動物達を殺すってことだろ? 俺の住んでた星でそんなことしたら、かなりの重罪になるぞ?」


「モノに宿るについての話だろう? 君達にとってそれは大切な事なのかもしれないが、私以外のメンバーは興味のかけらも無い。だから、星をリセットする事への抵抗はまったくないはずさ。君達でいうところの、遊び終えた積み木を片付ける感覚と似ているかもな」


 黒い機械達の生物を軽視した行動は、これでもかという程見てきた。

 重罪だなんだとうたっても、結局はヒトの決めた約束であって、文化でしかない。

 そんなこと、彼らにとっては至極どうでもいいことなのだろう。


「さて……誤解も解けたことだし、非常に名残惜しいが私はそろそろ出発するよ。伝えたいことや聞きたいことが、まだまだたくさんあるのだが、どうやら体内に残留したウイルスがそれを阻害しているみたいでな……全てを伝えきれず申し訳ない」


「とんでもない。改めて礼を言うよ、ありがとう」


「この先の水源へ向かうのだろう? 私も君の立場ならそうしていると思う」


「……! なるほど……分かった!」


 俺がそう言い終えると、スヴァローグはカラス型のモノリスに跨り、共に宙へ舞った。


「死ぬなよ、少年」

「お前もな、スヴァローグ」




 星空へと消えていく隻腕の友人を見送りながら、先程の言葉を思い返す。


『私も君の立場ならそうしていると思う』


 スヴァローグの口からは具体的に何があるとは言えないが、俺達はこれから水源で何かをしなければならないということだろう。


 問題は山積みだらけだが、元々決めていた目的地がより明確になった。

 と同時に、スヴァローグがいなかったら今頃どんな心境だったのかと思うとゾッとする。



「今回も……なんとか生きてたな……」


 柄にもなく独り言を呟く。

 揺らめく焚火から視線を落とすと、さっきまでスヴァローグがいた箇所に炎の灯りを反射する物体が。


 あいつの忘れ物か……?

 気持ちのいい別れをした手前、早々に舞い戻るのはさぞ気まずいだろう。

 少し横になって寝たふりでもしておくか。

 少しだけな……。

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