122話 ファーストチャンス
「ピノ、来るぞ! 準備はいいか!?」
「いつでもいけます!」
先程まで存在しなかった植物がこれだけ大量に生え、足元の雨水がなくなっていったとしたら嫌でもやつは気が付くだろう。
何をされているかまでは分からなくても、俺達に向かってくるのは目に見えていた。
ただしこれも想定済み。
敵個体AがN2に向けていた身を翻し、俺達へ向けて跳躍した。
セシリアの解析で、やつの移動は地面を蹴った空中移動が主だった。
着地点の予想が可能かつ、やつがこちらからのアクションに回避困難なこのタイミングが、俺達がやつを捕らえるファーストチャンス。
やつの落下予想地点のオオバケアロエをピノが一気に急成長させ、今まで吸水していた水分をたっぷり含んだ巨大な葉肉が生い茂る。
高さは俺の身長を優に超え、たぷんと効果音が聞こえてきそうな水風船まがいの葉肉に、跳躍の勢いを殺せずに突っ込んでいく敵個体A。
そのままずぶずぶと飲み込まれ、内部で暴れている様子が半透明な葉肉越しに映る。
オオバケアロエの葉肉は、外側は指で触れても弾ける程の薄い膜で覆われ、内側は粘度の高いジェル状の物質で構成される。
誤ってぶつかった昆虫などを葉肉で捕らえ、ジェルで逃げられなくした後養分にする多肉植物だ。
ジェル内の敵個体Aから気泡が放出されている。
おそらく何かしらの火器を使っているようだが、その中ではいくら暴れようが無駄だ。
解析結果上、やつの火力ではその葉肉からは抜け出せない。
「ピノ、畳み掛けろ!」
「はい!!」
ピノが捕縛用の植物の種子を、葉肉目掛けて投げ込もうとしたその時、突然黒いアームがやつを鷲掴みにし、外へと引きずり出してしまった。
アームの持ち主はN2。
おそらく、先程まで戦っていた敵個体Aを追ってきたんだろう。
「どうしてですかN2! せっかく捕まえられたのに!」
俺達の努力を文字通り水の泡にしてしまったN2に、ピノが悲痛の声を上げる。
こんなに近くにいるのに、N2はピノの声には何も反応を示さない。
もちろん、俺の声にも。
敵が行動不能になればN2も大人しくなると思っていたが、違ったか……。
あの状態でも動作が止まらないとなると、完全に敵を破壊するまで暴走したままなのか?
「@¥%O#%$!」
ラジオのチューニングがズレたような音声を発しながら、アームで掴んだ敵を振り回すN2。
あいつはもう、言葉を話せない程に自我を失くしてしまっているらしい……。
N2の発する不協和音を耳にするたび、怒りと不安が混じったような感情が足をすくませる。
でも、踏み出していかなければ。
俺が止まったら、誰もあいつを止められない。
敵個体Aを幾度か周囲の岩に叩きつけた後、2本のアームで片方の手足をそれぞれ掴んで敵を地面に抑え込むN2。
余ったアームの先端をドリルのように回転させ、身動きが取れない状態の敵の腹部を何度も何度も刻み付ける。
ドリルとヤツが接触するたびに激しい火花が舞う。
これに対し、敵個体Aも空いている左腕で火球をN2に撃ち込んで反撃する。
が、弱まったヤツの火力ではN2にダメージを与えられていない様子。
それでも反撃がうっとおしかったのか、N2はドリルでの攻撃を止め、ヤツの左腕をアームでガッチリと挟み込んだ。
そしてそのまま引きちぎる勢いでアームに力が込められる。
腕の接合部からは火花が飛び散り、内部の繊維が千切れるような音が聞こえた時、ヤツが静かに呟いた。
「へっ、欲しけりゃくれてやるよ」
次の瞬間、ヤツの左腕がカッと光り、破裂音と共に周囲は爆風に包まれた。
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