117話 脳内アナウンス その2
(「レイ……」)
(「起きてください、レイ……」)
誰かが俺の名を呼んでいる。
とても温かい。
ぬるま湯につかっているような、あるいは木漏れ日に照らされているような……。
ゆっくりと目を開ける。
と、周囲が柔らかい光に満ちた不思議な空間にいた。
そして何故か俺はこの空間を漂っている。
俺以外に何も存在しない世界。
何してたんだっけ。
なんでこんなところにいるんだっけ。
居心地は悪くない。
むしろ、ずっとここにいてもいいような気さえする。
再び眠りにつこうと目を閉じようとした時、遠くの方からふわふわとシャボン玉のように浮遊する光の球体が近付いてきた。
(「こうしてお話しするのは初めてですね」)
光の球体は俺の1メートル先で静止し、そう言った。
音を発して話しているわけじゃなく、心に直接語りかけられているような感覚。
それに、どこかで耳にしたことのある女性の声のような気がする。
「君は?」
(「あなたは以前、私の事を脳内アナウンスと言っていました」)
「あぁ、君か。聞いたことがあるような気がしたのはそれでか。あれ、でも、前はもっと抑揚がないというか、機械的な喋り方じゃなかった?」
(「すみません、あまりそちらにリソースが割けなかったもので。一時的ではありますが、ピノのおかげで力を取り戻すことが出来ました」)
後でお礼を伝えて欲しい、と脳内アナウンス。
なんでも、ピノのエナジーがなければ俺も命が危なかったのだとか。
よくわかんないけど。
脳内アナウンスいわく、ここはまあ何と言うか、いわゆる俺の中の精神世界みたいなもので、現実世界と精神世界が極端に離れたおかげで、俺をここに呼べたのだとか。
元々脳内アナウンスはナノマシンで、N2との接触時に俺の体内に移ったようだ。
もしかしたらと思い、N2の事を聞いてみたけれど、そもそもなんでN2に宿っていたのかも分からないらしい。
この星のことについても同様に知らなかった。
ちなみに、傷の治りが早かったりしたのもこいつのおかげだったらしい。
で、今も絶賛修復中なのだとか。
話を聞いている内に、ふと冷静になる。
死にかけてここにいるってことは、現実世界の俺は今危険な状態なのでは?
(「ええ、そうですね」)
俺の問いに、脳内アナウンスはさらりと言ってのけた。
あたかも他人事かのように。
特に焦った様子もなく、さらりと。
(「心臓付近の動脈が消滅し、血液が多量に流出。ピノとラズの救助があと1分遅れていたら、助からなかったでしょう」)
消滅って。
あぁ、転んだにしては随分大袈裟だと思っていたけれど、そういう事か。
ちょっとずつ思い出してきた。
起きた後が修羅場じゃねえか。
黒い機械が2体に、スヴァローグ、そして暴走しているらしいN2。
1体でも化け物じみた強さなのに、それが2体。
ボロボロになっているが、以前N2とピノをあっという間に倒してしまったスヴァローグも脅威だろう。
それに加えてN2まで……。
どうしようもねえだろ、そんなの。
考えただけで吐きそうだ。
(「そのために私がいるのです」)
自信ありげに、脳内アナウンスは言う。
(「レイ、目が覚めた後、どうしたいかを心で念じてください。欠損した細胞を治した後の残りエネルギーからすると、およそ10分間。私のサポートであなたは戦場を思いのままに動かせます」)
「心で……? 思いのままにって、どういう……?」
(「百聞は一見に如かず、です。さぁ、そろそろ目を覚ます時間ですよ」)
脳内アナウンスがそう言うと、俺の体は徐々に後方へと流されていった。
次第に光の球体と距離が開く。
やがて俺の体は後方の強烈な光に吸い込まれていく。
「待って! まだ名前聞いてない! お前の事、これからなんて呼べばいい!?」
後方の光に吸い込まれる刹那、脳内アナウンスは柔らかい声でこう答えた。
(「私のことは『セシリア』と、そうお呼びください」)
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