81話 やさい!

 N2の案内通りに奥の部屋で待機をしていると、ミニN2達が地上からベットを分解して持って来た。

 5体それぞれが分担し一瞬でベットを組み立てると、半ば強制的に寝かしつけられた。

 どのくらい眠ったのかは定かではないが、半覚醒の脳を起こしたのは鼻をくすぐる良い匂いだった。

 それはこの星で嗅いだことのない、空腹を満たしたいという欲求を強烈に掻き立てる食物の香り。


 おもわずベットから起き上がると、寝る前は何もなかった入り口にのれんのような薄い布がかけられていた。

 こんなもの宇宙船には積んでなかったはず……。

 それに布の奥が妙に明るい……。


 香りに誘われるままのれんを潜ると、薄暗かったはずの新拠点の通路がとても明るくなっていた。

 宇宙船の中ほどではないが、穴の中とは思えないくらいに明るい。

 電気は通っていないはずなのに、土壁自身が白く輝き通路全体を照らしている。

 言わずもがな、N2の仕業だろう。


 通路の先を見据えると、ミニN2達がパタパタと働き、何かを運んでいる。


 俺が寝てる間、ずっと動いててくれたのかな。


 気になる部屋がいくつかあるが、良い匂いは更に奥の部屋からしているのでまずはそこを目指そう。


 まだ何もない部屋を通り過ぎ、物置部屋のような部屋を通り過ぎると、植物が大量に茂っている部屋を見付けた。

 部屋の中心にはピノが倒れていて、両手足をパタパタと動かしている。


「だ、大丈夫か……? まだ調子悪い? ていうかこの部屋は何?」


 縦横およそ5メートル、高さは3メートルくらいの部屋に、見たことない植物達がこれまた見たことない実を付けている。

 恐る恐るピノを上から覗き込んだタイミングでようやく気付いたようで、ピノは慌てて起き上がった。


「わ、レイ様……これはお見苦しいところをお見せしました……」


「N2に何頼まれたんだ?」


「そおーーなのですよ!! とっても大変だったんです!! ……とっても!!」


 ピノにしては珍しく強調してくるな……。

 多分この部屋と、植物に関係する事なんだろうけど。

 ちらっと生えている植物に目をやると、ピノがぼそっと呟く。


「その子は交配種数17……N2いわくオリオンカボチャ、だそうです」


 これまた珍しく虚ろな目でピノは続ける。


「その隣に植わっている子は七光りナス、その隣は絶叫ニンジン、次が3つ首ダイコン、そして弾けピーマン、それから……」


「待っておちつけ! やっぱ何か後遺症が!?」


「いいえ、レイ様。ピノは少し、少しだけ疲れているだけです。N2に栄養価の高い野菜を育てろと言われ、奮闘中なのです!」

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