戦うための力

73話 君の名は?

 ビースト・アーティファクト。

 赤いロボットは少し自慢げにそう言った。


「アーティファクト……って、さっきの黒いロボットが言ってたやつか?」


「そんなこと言ってたか? まぁ、あの状況でその単語が出たなら、十中八九アタシらの事で間違いないだろうな」


「あぁ、箱に仕舞うとか言ってたぞ。というかって、他にもいるのか?」


「いるじゃねえかよ、目の前に」


 赤いロボットはそう言いながら、目線をN2に向けた。


「私が……アーティファクト?」


 N2は首をかしげならキョトンとしている。

 まぁ安定と言うか、知らなかったのは想像通りだな。


「お前、アタシが言える口じゃないが、そんなことも覚えてないのか?」


 あたかも覚えていて当たり前といったような口ぶりだ。

 通常、コアの内部に僅かだが記憶領域が存在し、赤いロボットの言う身体的特徴なんかはその記憶領域に保存しておくらしい。


「N2は俺とこの星で会った時には既にボロボロで、今の体も俺が素材を集めて直したんだ。他の黒い機械生命体にずっと襲われてたみたいだし、そん時にコアにもダメージを受けて記憶領域にも被害がでt」

「まて、この星で会った? こいつを連れて外から来たんじゃなくてか?」


「あぁ。N2は着陸地点の近くにいたんだ。ピノって子も同じくこの星の地下で会った。まぁN2もピノも名前は俺が付けたんだが」


「そうか……。つまりアタシ達全員が似たような状況で時が過ぎたってことか……。この白いの……N2も大変だったんだな……。ところで人間、お前は何しにこの星に来たんだ?」


「いや、俺は遭難しただけだ。目的とかは特にないよ。どういうわけか宇宙船も壊れてて、帰るに帰れず2週間が過ぎた」


「他に人間は?」


「俺が確認してる限りではいないな。そもそも俺が来たときはこんな植物なんて生えてなくて、虫とか動物もここ数日で出現したばかり。星全体を見たわけじゃないから分からないけど」


「なるほど……。それでか。猿達の記憶が浅いのもこれで納得がいく」


「記憶って、猿の記憶が覗けるのか?」


「なんだよそれ、使い勝手悪過ぎだろ」


 このロボット……ツッコミが出来るだと!?

 単に疑問に思っただけでボケるつもりなんてなかったが、意図せずツッコまれるという状況になってしまった。

 この星に来てからツッコまれる事なんてなかったからな……。


「なんて顔してんだおめぇは。ビースト・アーティファクトだって言ったろ。アタシは動物達と意思疎通、つまりコミュニケーションが取れるんだ」


 俺自身どんな顔をしていたのかは分からないが、俺の表情を不審そうにしながら赤いロボットはそういった。

 あーなるほどなー、なんて薄いリアクションを返してしまったが、俺が生きてきた中でそんな技術は存在しなかったし、この星で色々なものを見てしまったからどうにもな……。

 実際かなり驚いてはいるんだが。


 コミュニケーション対象は違うが、ピノも植物と似たようなことが出来た。

 つまりアーティファクトというのは、限定的ではあるが生物とコミュニケーションが取れる機械……なのか?


「私もレイと意思疎通が出来るぞ!」


 N2が元気よく言い放つ。

『正確に』という言葉を付け加えると、その真偽は危ういが……。


「お前も苦労してんだな……」


「お気遣い感謝するよ……」



 赤いロボットが言うには、アーティファクトというのは概念が広く、本来は『人が作ったモノ』という意味らしい。


「当時はありふれた言葉で、人間と意思疎通しながらそれぞれの目的を成し遂げるロボットのことをアーティファクトって言ってた。目的ってのは様々あったがアタシやピノみたいな能力は特別だった。お前が聞いたことないってんだから、多分もう必要なくなって消えていったんだろうな。ま、この星にいるアーティファクトは目的すら忘れちまってるみてえだが」


 赤いロボットの言うことが事実であるなら、やはり人間の歴史には作為的な改変が行われている気がする。

 いったい過去の人類に何があったというのだろうか……。





「さて、話は大体分かった。お前の目的はこの星から出て、元の星に帰る事でいいんだよな?」


「あぁ、そうだ」


「ならその脱出計画、手伝ってやるよ。アタシ含め、動物達も、お前達が来てなかったら更に被害を受けてただろうしな。まぁ手伝うといっても、アタシは船を直せないから、船が直るまでの護衛をするだけだが」


「それは助かる!! あんな強いの出てくると思ってなかったから、この先不安だったんだ」


 ありがとう、よろしく頼むと言いながら、赤いロボットの頭を撫でる。


「き、気安く触んじゃねえ! 調子乗ってると寿命削んぞコラ!」


 赤く艶やかなボディが更にほんのり紅く染まり、3メートル程の距離を取られてしまった。


「アタシは必要なもんを揃えてくる、この星にあるのか分からねえが。それに、あの黒いロボットが狙ってんのは動物じゃなくてアタシだって分かったからな。ここにいちゃ守るもんが多すぎて戦えねえ」


 心なしかさっきよりも早口で赤いロボットは話す。


「しばらく留守にするが、お前らだけで何とかすんだぞ。N2が何のアーティファクトなのかは知らねえが、そいつの力は3割も出てねえ。言い方が古いが、ちっとは”修行”をしろ! 色々手伝ってやんだぞー人間。じゃあな」


 赤いロボットは、まくしたてるように話すと足早に去っていってしまった。

 結局名前聞けず終いだったし……。

 修行を手伝うって、いったい何すりゃいいんだよ。


 赤いロボットが見えなくなった頃、N2が突然腕立て伏せを始めた。


「どうしたN2。一応聞いてやるが、どうしたんだ?」


「シュギョウ!!」


 赤いロボットよ……すぐさま戻ってきてはくれないだろうか……。

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