72話 ラブソングが唄えない

 一瞬の無音の後、炎が視界を覆った。

 炎に焼かれる覚悟をしたが、見覚えのある膜が俺と炎の間に壁を作った。

 N2のシールドだ。

 爆発の直後に作動させ、俺を守ってくれたんだろう。

 けれど、即座に作ったためにシールドは完璧ではなく、開いた隙間から外の熱気が僅かだが入ってきている。

 視界に広がった炎は一瞬で静まったが、爆風の勢いで飛ばされた物がビシバシとシールドを叩いて来る。

 多分、折れた木の枝や小石だろう……シールドがなかったらと思うとゾッとする。


 周囲に舞っていた粉塵が落ち着き、辺りを見回すと、ヤツを中心に50メートル程の距離の木々が倒れていた。

 けれどヤツとN2達がいる場所、それと俺の周りは被害があまりない。


 この爆発の威力ならヤツのいる場所も確実に爆風を受けるはず……。

 多分、さっきの黒い球はただの爆弾じゃないな。

 範囲を指定して、その範囲内の物体を壊す……といったところか。

 けど何で俺の近くは被害が少ないんだ?

 N2のシールドで守ってたのは俺がギリギリ収まっていられる範囲だけだ。

 そうだ……投げた黒い球……。


 周囲を探すと、すぐ近くに土に半分埋もれた拳大の黒い球を見付けた。

 形は俺が投げる前と変わっていない……つまり、爆発はしていないらしい。

 木に投げつけた衝撃で壊れたのか?

 いや、たまたまタイミングがズレただけなのかもしれない。

 こいつからは早めに離れた方がいいな。


 といっても、もう隠れる場所がない。

 逃げるにしても、一度木陰から抜けるとヤツに姿を晒す羽目になる。

 覚悟を決めるか……。


 まだ少し震えている膝に力を入れ直し、立ち上がる。

 ハンドガンをしっかりと構え、ヤツの下へと一歩一歩進んでいく。


「レイ!! 無事か!!」


 木陰から姿を表した俺にN2が気付き、安否を確認してくれた。


 あぁ、お前のお陰でな。

 ただ、今は話してる有余はない……。


 N2の問いかけに、声は出さず首を縦に振ることで応答する。


「…………」


 俺の姿を確認した黒いロボットも、無言のまま腕を動かし、黒球を再び出現させた。

 大きさは同じだが、さっきと違いカクカクと不規則な直線を描きながらこちらへ飛んでくる。

 ハンドガンを構えるが、N2いわく撃てるのは後2発。

 それに対して黒球は3つ……。


「レイ! イメージだ!」


 N2の言うイメージ……武器の変化……か?


「黙レ白人形、オ前ハココデ、ヤツガ死ヌノヲ見届ケルノダ」


 黒いロボットはN2の傷口をメリメリと踏みつける。


「ぐぅぅうッ」


 N2が苦しそうな声を上げる。


 くそッ、あの野郎……!


 いや……ダメだ、心を乱すな……。

 今は武器に集中だ……。


 ハンドガンを強く握り直し、飛んでくる玉を打ち落とすイメージをしていく。

 するとハンドガンが白く輝きだし、細く長く伸びていった。


 大丈夫、黒い球はしっかり見えている。

 けど……武器の形成はまだ終わっていないが、もう振り下ろすしかない……!


 体がきちんと付いて来るか不安だったが、振り下ろした武器は確かに黒い球を捉え、地面に叩き落した。

 そのまま勢いに乗り、武器は二つ目の玉を打ち落とす軌道に流れた。

 力はほとんど加えていない、これも多分N2のアシスト機能なのだろう。

 武器の奇麗な流れとは違い、体の動きはぎこちなかったが3つ目の玉も難なく打ち落とすことに成功した。


「よし! いいぞ!」


 N2が、踏みつけられながらもガッツポーズを取る。



「……アンチ・ゼノン……マサカ実在シタトハ……」


 黒いロボットがボソッと何かを呟いたかと思うと、N2から足を離して俺と反対方向へと走り去ってしまった。


「待て!!」


 N2がパタパタとヤツを追いかけるが、腹の傷のせいかうまく走れずに転んでしまった。


「N2無事か!? 赤いのも、大丈夫か!?」


 顔を泥まみれにしたN2が起き上がり、駆け寄ってくる。


「私は無事だ! それよりもレイ! すごかったな! 私は君ならやれると思っていたよ! あいつめ、恐れをなして逃げていったぞ!」


「馬鹿かおめぇは! そんなひょろ人間のキラキラ棒に誰がビビるってんだよ!」


 赤いロボットの言う通り、改めて見ると俺が生成した武器はただの白く淡く光る金属棒だった。

 何らかの作用で、上手く形成出来なかったのかもしれないが、確かにこれを恐れて逃げたとは考えにくい。

 攻撃してきた黒い球も何か別の意図があったような気がする。

 周囲を更地のように出来る武器を持ってるのに、叩いて終わりの球をわざわざ出しはしないだろう……。


「何を言うか! レイはすごいんだぞ!? 私の体だってな、レイが……私の……体だって……」


「だぁー、もう悪かったよ! 体をそんなにしちまったのは謝る、悪かった」


 赤いロボットがN2がまたぐずりそうになるのを、謝る事で阻止した。

 こいつも喋れてるし大丈夫そうだな……。


「それと……人間。お前もありがとな……。お陰で奥の手を使わずに済んだ」


 まだ何かあったのかよこいつ。

 というか素直な面もあるんだな。


「アンタが珍しいタイプの人間だってのは分かった。けど、勘違いすんなよ。アタシはまだ人間を許しちゃいない。多分この先もずっと……」


 怒ってはいないが、どこか悲しそうな……そんな表情をしながら赤いロボットは言った。


「お前は以前の記憶があるのか?」


「アタシがどうやって生まれたとか、どこで何してたとか、そんなのは覚えちゃいない。覚えてんのは、言葉やアタシの身体的特徴なんかだ。なんでここにいるのか、この場所が何なのかもアタシには分からねえ」


 この赤いロボットもN2程じゃないが記憶を亡くしているらしい。

 雰囲気的には、ピノの断片的な知識を覚えてる感じと似てるな。

 ちなみに日本語で話しかけてきた理由は、俺達が話している言葉を聞き取ったとのことだった。


「じゃあ何でそんなに人間を恨んでんだ?」


「いつの記憶……そもそもアタシの物なのか分からねえが、自然や生き物を焼き払う人間の光景が脳裏に張り付いてんだ。ただなんとなく事実だってことは分かる、アタシは夢を見ねえからな」


 にわかには信じがたい話だ……。

 そんなことしたら重罪だし、第一それをするメリットがない……。


「それに一番の理由は、アタシをこの星に閉じ込めたのは人間だからさ。バカみてぇに長い間……ほんと、バカみてぇにな……」


 ……は?

 人がこの星にいたのか?

 やっぱり昔はこの星にも文明があったのか?

 となると、今の歴史が語られる前からこいつはここに……。

 いやそもそも、俺が知っている歴史は正しいものなのか……?


「まて……混乱してきた……。何で……誰がそんなことを……」


「さぁな。そいつを紐解くカギは、アタシの過去にありそうだが……。最後に見た光景は何人もの人間が、アタシを分解したり、中身を弄ったりする光景さ。コアだけになったアタシはそいつらに閉じ込められ、長い長い眠りについた。そんで気付いたら猿達に囲まれてた。アンタ達がのしちまったけどな」


「……そっか。いや……猿の事は……まぁおいとくとして……。ならお前は猿達に目覚めさせてもらったってことか? 人の寿命をもらって起動するピノとはまた違うんだな……」


「……ピノってのが誰なのか知らねえが、アタシも本来は人間に力を借りて起動するぞ」


「そうなのか? ならピノも人の寿命じゃなくても起動出来たのか……」


「いや、そいつは無理だな。そのピノってやつも、アタシやこの白いのの仲間だとしたら、必ず人間の寿命を使って起動する」


「じゃあ、なんでお前は起動出来たんだ?」





「そりゃ特別だからさ。アタシは世界で唯一無二の”ビースト・アーティファクト”だからな」









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後書きです。

いつもお読み頂きありがとうございます。

今回の章はいかがでしたでしょうか。

多分皆さんが想像していた世界観とは少し違ったかもしれません。

特に挿入話に関しては公開するか迷ったのですが、レイ視点のみでは伝えられない部分でしたので、入れさせてもらいました。


描きたい描写は色々あったのですが、文字数は出来るだけ抑えたかったので、かなり駆け足で書き上げてしまいました。

ですので、細かい描写等は皆さんの豊かな想像力にお任せします……。

荒い文面が多々あるかと思いますが、出来るだけ読みやすいように努力はして参りますので、彼らの物語の終着点までお付き合い頂けると幸いです。


また、多くの人に読んで頂きたい思いもあるので、ハートや星を付けていただけると有難いです。(いつも応援してくださっている方々、ほんとにありがとうございますっ)

無言のレビューとかでも大歓迎ですので、少しでも面白いと思っていただけたら応援お願いします。


それでは。


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