71話 バレット・バレッド

「レイ、今から君に私の体の一部を武器として譲渡する」


 N2は、自身の右手の金属を液状化させながらそう言った。


「私の体から金属が離れる場合、重力の影響を急激に受けるようになるから、レイでも扱える重さ……そうだな、3000グラム程の武器になるように君に金属を渡そう。ただし、武器の形状は自分でイメージしてくれ」


「イメージって……武器なんて触ったことがないし、古い文献に載っていたのをずいぶん昔に見たことがある程度だぞ!?」


「そんなはずはないさ。レイはこの星で様々な武器を目にしているはずだ」


 あ、そうか……。

 N2と黒の機械達との戦闘で使っていた物……。

 あれこそが、この星で生きていくために必要な武器なんだ。

 いや……武器というより、もう魔法の類か何かだ……。


「時間がない。渡すぞ!」


「え、いや、ちょっ……」


 N2の右手に吸い付くように漂っていた金属の液体が、N2の下から離れふわりとこちらに近付いて来る。

 そのふわふわした輝く液体を両手で受け取り、目を瞑りながら黒いロボットと戦うという決意を込めていく。

 じんわりと温かい金属の液体が手の上で形を変え、やがてズシリと重みのある何かへと変貌した。


「ほぅ……宇宙船の本に載っていた『ハンドガン』というやつか。これならばあの黒いのに近付かなくても攻撃が出来るな」


 N2が関心するように白色の武器を眺めながら、そう呟いた。

 ハンドガンてのは確か、引き金を引くことで中に込められた弾を打ち出すことが出来る片手用の銃だ。

 どうイメージしてこの答えに辿り着いたのかは自分でも不思議だが、あの黒いロボットに近接戦で敵うはずがない。

 そう言う意味では遠距離で攻撃が出来るハンドガンは理にかなっていると言える。


 N2は体の一部を分け与えてくれたわけだが、体のどこかが欠損しているということはない。

 原理は不明だが、内包する金属を分けてくれたようだ


「けど……俺、銃なんて撃ったことないぞ……」


「貸して。中身を少しいじって、自動照準機能を付けておこう。それと……この質量だと、弾は撃てて3発だな。撃つ時は両手でしっかり持つんだ。じゃないと肩が外れるぞ」


「怖すぎるんだが!? それにこんな小さい武器でアイツを倒せるのか?」


「それはやってみないと分からない。ただ、この武器でも以前の私のエネルギー弾と同等かそれ以上の威力が出るはずだよ」


 すげーけど、お前が比べてんのはお前が撃った中のどのエネルギー弾だよ!




「作戦ハ立テラレマシタカ?」


 いつのまにか樹上に黒いロボットがいた。


 くそ、余裕ぶっこきやがって……。

 あれ……追っていった赤いロボットはどうした?

 まさかやられたのか?


 黒いロボットは立っていた枝をとんっと蹴り、木の幹を駆けながら接近してくる。

 こちら側に飛ぼうと踏み込んだ刹那、赤い閃光がヤツ目掛けて突っ込んでいった。


「鬱陶シイデスネ……マダ生キテイタンデスカ」


「首を少し捻られた程度じゃアタシは落ちねぇよ! 関節の柔らかさが売りでな!」


 よかった……生きてたか……。

 首を捻じられたらしいが、どうやら無事らしい。


「その様子だと、上手くいったみてぇだな。相談は無しだ、場面で合わせろ!」


 赤いロボットは、チラッとこちらに振り返りながら話す。

 その言葉が合図かのように、N2がチャージをしながら駆け出した。

 俺も出遅れちゃいけない。

 何をすべきかは自分で考えるんだ。

 隠れて移動しながら、ヤツに一撃を叩きこむチャンスを見出せ!


「ここからはアタシも全力で行く。さっきまでの時間稼ぎとはわけが違うぜ、覚悟しな!」


 赤いロボットがN2を攻撃した時と同様に両腕に電気を帯電させ、金属同士がぶつかり合う激しい音を立てながら黒いロボットの殴る、殴る、殴る。

 しかし黒いロボットの左腕に薄い膜のようなものが張られていて、攻撃を防がれてしまっている。


「アナタノ攻撃ハ一度見マシタ。モウ私ニハ効キマセンヨ」


「ハンッ、そうかい。けどこれならどうかな!?」


 赤いロボットが強がりを見せたと同時に、N2がヤツの背後から近付きチャージしていた右腕を一気に振り下ろした。

 振り下ろされた右腕はヤツに触れる直前、2メートル程の巨大なナイフへと変貌した。

 耳を塞ぎたくなるような金属音が周囲に響き、攻撃の重さを物語る。


「残念、ソレモ実ハ前ニ見タ事ガアリマシタ」


 黒いロボットはN2の一撃を左手で防いだ。

 ナイフの攻撃は一度もヤツに見せていないのに……。


 絶望している暇はない。

 ヤツの両手がふさがっている今がチャンスだ。


 後ろに吹き飛ばないように背中に巨木を控え、黒いロボット目掛けてハンドガンの引き金を引く。

 ガウンという音と共に光弾が発射され、ヤツの頭部に直撃した。

 着弾した光弾が弾けた衝撃でヤツを抑えていた二人が飛ばされてしまった。

 引き金を引いた反動で両手がびりびりと痺れている。


 頼む……これで決まってくれ……。

 こんなの……残り2発撃つ前に腕がぶっ壊れちまう。


「コレハ驚キマシタ……。マサカ人間ニ攻撃サレルトハ……」


 頭から黒い煙を噴出しながら黒いロボットはそう言った。


 倒せて……ない……。


「チョコマカト動キ回ラレテモ面倒デスネ。コノアタリヲ爆破シテ、見晴ラシヲヨクシマショウカ」


 黒いロボットは腕をだらりとぶら下げ、腕の先からボトボトと計6個の黒い球を出した。


 爆弾を出したのか?

 あれ一個一個が爆弾だっていうのか?


 ふわりと6つの黒玉が宙に浮き、それぞれ別の方向へ飛んでいく。

 そのうちの一つは俺の方へ向かってくる。



「っく! 離せ!」


 N2は黒いロボットに踏みつけられ、身動きが取れていない。

 赤いロボットも力を出し尽くしたのか、その場から動けないらしい。

 あの黒いロボットが生み出したのがもし本当に爆弾なら、威力は相当やばいはずだ。

 二人を見捨てて全力で逃げ出すか?

 いやいや、ありえないだろ……。

 でも俺が突っ込んでいっても勝ち目はない……。

 どうする……どうする……!


 その時視界の端で黒玉を捉えた。

 木の裏に隠れていたお陰で死角になったのか、黒玉との距離は目と鼻の先だった。


 もうこんな近くに!?

 とりあえず掴んで遠くへ……!


 ふわふわ漂う球を掴み、慌てて腕を振り下ろす。

 焦りすぎた俺は、あろうことか目の前の巨木目掛けて振り下ろしてしまい、黒い球はゴツンと音を立てて巨木にぶつかった。

 そしてコロコロと足元へ舞い戻ってきてしまった。


「吹キ飛ベ」


 黒いロボットの発声と同時に視界が真っ赤に染まり上がり、周囲の木々が粉々に吹き飛んだ。







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こんばんは。

更新遅くなりすみません。

各キャラのセリフと行動を考えていたらキリがなくて、なかなか更新できずでした。


前話の最後の箇所を少し変えました。

N2が一方的に武器を渡すのではなく、レイに選ばせた方がいいかなと思って。

このへんのキャラの絡みがとても難しくて正直納得していないので、もしかしたら後で少し変えるかもしれません。

ご了承ください……。

次回の更新でこの章の最後となります。

よろしければ引き続きお付き合いください。

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