45話 コミカル・ザ・ケミカル

「後はコブコガネのこぶの錆をとれば加工出来るね」


 錆ごと食べているのか、こぶが出来てから錆びたのかは分からないが、どういうわけかこぶには錆が付いている。

 風呂敷の中身を陳列されたとき他の金属と見分けがつかなかった理由はそれだ。


 こぶが20コ程あれば宇宙船の装置一つ直せる、とN2はそう言った。

 だとしても道のりはかなり遠い。

 さっきの探索で見かけたコブコガネは3匹。

 人海戦術で探すことも出来るが、恐らく個体数はそこまで多くない。

 あいつらには酷だが、量産する術があるなら捕獲して養殖する手段も考慮すべきだろう。




「ウツボカズラの消化液は何に使うんだ?」


 N2自作の小さな瓶に入った液体の意図について触れる。


「何かに使う……というよりは、単なる好奇心だね。ウツボカズラの中に荷物を持ったまま落っこちたときに、金属片から泡が発生していたんだ。この泡が何なのか気になってさ」


 化学反応というやつか……。

 実際この金属が何なのか分からないが、いずれ調査する必要がある。

 小さな瓶の中に更に小さな金属の破片を入れて反応を見ると、確かに泡の粒が破片の表面に発生した。

 N2の右腕は気体までは解析出来ないので、発生した気体を調べるには別途実験器具が必要そうだな。

 となるとビーカーや試験管に使うガラスも必要か……。

 新しく何かを作るために一々装置を分解してられないしな。

 何かを高温で熱すると出来るってのは知ってるんだが、肝心な材料が分からない。

 ガラスって何から作るんだ?


「N2、その瓶自体の解析してみてくれ。原料が星にあれば他にも作れるかも」


 なるほど、やってみる、とN2。


「おどろいた! 比率は違うけれど、この星の砂と原料はほぼ同じだよ!」


 砂からガラスが出来るのか?

 半信半疑ではあるが、N2がそういうのなら間違いないのだろう。

 とすれば材料はほぼ無限に手に入るな。


「後で採取して制作してみよう! 集めて熱を加えればいいのか?」


「確かそのはず。違ってたらごめん」


「いいさ。材料さえあればなんとかなるよ」




 風呂敷の中身の最後の一種。

 蟻のような虫が育てていた木の実だ。

 比較対象に同じ個体の木の実と、同じ種類の植物だが他の場所に生え、虫に育てられていなかった個体の木の実が入っている。

 改めて比べると分かるが、大きさは虫に育てられていた実の方が2倍は大きい。


「さて、レイ」


「な、なんだよ」


 不敵な笑み、かは分からないが雰囲気からしてN2は何かを企んでいる。


「君にはこれを食べて検証してもらおう。栄養いっぱいの実を食べて強くなれ」


「ほうれん草かよ! 虫が育てた実なんて怖くて食えねぇよ!」


「ふふ、冗談さ。解析してみたが、この大きく育った実には他の植物の実にはない成分が含まれている。比較対象がないので当然何なのかは分からない。そこでこの実を育ててみようと思うんだ。これはピノにお願いしたい」


「ピノがですか……? いいですよ」


「枯れないように見ててくれるだけでいい。育ったら会話してみてくれ」


「分かりました!」


 ずっと虫の話題ばかりだったからな。

 退屈そうにしてたピノには丁度いいかもしれない。

 俺もどう育つのか気になるし。


「レイに任せると、こっそり食べてしまうかもしれないからな!」


「食わねぇよ!」





 当たり前のことだが、こいつらがいなかったらきっとこの宇宙船の中もこんなに賑やかではなかった。

 静かな星の中でスナックをちびちびと食べながら助けを待つのみだっただろう。

 笑って明日を迎えられる。

 それだけで幸せなんだと、今はそう思うことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る