20話 ユウドク

 N2の報告通り、外は晴れ晴れとしている。

 廃材だらけだった景色は、植物の出現により、美しいコントラストを描いていた。

 最後に見たシェルターからの景色は、もうどこにもない。

 より成長した植物は、俺の背くらいまでのものもある。


「植物は、こんなにも短期間に大きくなれるものなの?」


「いや、異常だ。俺の星では、実をつける程の成長に、少なくとも数年は掛かる」


 可能性として、降り注いだ雨に植物の成長を促す成分が入っていること。

 もしくは、この星の植物自体が、急激に成長する性質をもっていること。

 あるいはその両方か……。

 あとは、日の光が作用している可能性もあるな。


 N2の報告には、植物が成長するにつれて、土の水分が減っていく現象というものがあった。

 その現象も、今まさに目の前で起きていて、土の色が植物の成長に合わせて、薄くなっていくのが確認できた。


 やはり雨と関係性が?

 後で持参した水と、ペットボトルに採取した雨水を植物にかけ、どう反応するか見てみよう。


 土が本来の色を取り戻し、次第に植物の成長がゆっくりと減速していく。

 そのうちの植物の一つに、N2が起き掛けに見せてきた木の実と、よく似た形状の実があった。

 直径1センチ程の大きさの、赤い木の実だ。


「これ、持ってきてくれたのと同じやつか? 旨そうではないが、食べられそうだな。問題は、毒を含んでいるかどうか……」


 木の実を一粒もぎ取り、手に取って眺めてみる。

 俺の星でも、赤い木の実を付ける植物は多い。

 しかし、赤い木の実は、毒性は強くないが、有毒なものが多かった気がする。


「レイが今持っているのは、ハナミズキ。別名でアメリカヤマボウシという植物の木の実だよ。私が持って行ったのは、サンシュユ。別名はヤマグミという植物なので似ているが少し違うな」


「種類が分かるのか!?」


「ここに発生した植物は、ほとんど図鑑に載っていたものばかりだったからね。似ている実でも、葉の形状も踏まえて比較すると、だいたい分かるよ」


 あの膨大な図鑑から情報を?

 写真と名前、それに別名まで記憶してるのか?


「ちなみにハナミズキは【有毒】らしいよ。あまり長く触らない方がいいかも……」


「それを先に言えよ!!」


 N2が船内に持ってきた実は、図鑑に【有毒】と記載されたものを除いた実らしい。

 こやつ、出来る!

 毒を摂取した際に被る症状は、N2が認知しないものらしく、可食かそうでないかを判断できる程度のようだ。

 まぁそれだけでも十分なんだけど。


 しかし、可食と分かったところで、早速頂こう、とはならないのが難しいところだ。


 N2が見た図鑑は、あくまで俺の星のもの。

 仮にこの星の植物が全て有毒だったとしても不思議ではない。


「N2を疑うわけじゃないんだが、知らない星の植物だし、食べるのはちょっと怖いかなって」


「私も単純に、あの図鑑を鵜吞みにしたわけじゃないよ。【有毒】に当たる成分が、本当に含まれているか調べたんだ。この右腕でね」


 N2はそういうと、自慢の腕を高らかに掲げて見せた。

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