17話 アメ

 絵本を閉じ、表紙を見つめ直す。

 悲しそうなN2を見て、俺の中での「星のヒーロー」は、ただの懐かしいお話から、BAD-ENDとなってしまった。

 古びて劣化したブックカバーは、絵本の物語の悲壮感をより際立たせた。


「絵本はみんな悲しいお話なの?」


「そんなことないさ。桃から生まれた赤ん坊が鬼を倒す話とか、カメを助けたお礼に海の中のお城に招かれておじいさんになっちゃう話とか」


「レイ……わざとでしょ」


「違うって! 確かに概要だけだと悲しい話に聞こえるかもだけど、一つ一つの話に教訓みたいなメッセージが含まれてるんだよ」


 知っている昔ばなしにはたいてい悪役がいて、それを懲らしめたりしてハッピーエンドに繋げるものばかり。

 もちろんそうでない話もあるが、どうしたってたくさん思いつくのは、悪役懲らしめ系のものが多い。


 物語には必ずしも悪役が必要なのか?

 それとも正義こそ正しい、という偏見的思考による錯覚?

 まぁ俺一人が考えたところで、結局は憶測に過ぎないが。

 いつか結論をだしておいても、損はないだろう。


 N2が図鑑のページをめくる音と、ポテチが口内で砕ける音のみが船内に響く。

 絵本を読み聞かせてからN2の様子が少し変だ。

 本の内容を確認した後に、N2に聞かせるべきだったか?

 もう少し明るく話せば、印象は変わっていたか?


 過ぎてしまった答えのない時間に、思いを馳せる。



 ふと、2種類の音の他に、もう一種類別の音が加わったことに気が付いた。

 テンテン、テンというリズミカルな音に驚き、思わずN2と目を合わせた。


 聞きなれないその音に、N2は一度図鑑を閉じて、そわそわし始めた。


「レイ……! シェルターの外に、なにかいる……!」


 N2は俺のズボンの裾を掴みながら、小声で身の危険を知らせる。

 リズミカルだった音は、次第に間隔が狭くなっていき、やがてザーという音に変わった。

 わわわわと、N2が更に慌てふためく。

 N2と相反して、その音には聞き覚えがあったので、俺の方は至って冷静だった。

 ただ、この星でとなると、別に警戒する部分はありそうだが。


「外、見てみるか?」


 無言のまま、うんうんと頷くN2。

 船外へ出て、シェルター入り口の前に立つ。



 N2の合図で入り口を開くと、そこには空から水滴が無数に降り注ぐ光景が広がっていた。


 

 やっぱり雨だったか。

 N2が、わー、と感嘆の声を上げる。


「すごい。たくさんの……水……か? 空からたくさん水が落ちてきてるよ、レイ」


「あぁ。雨だよ」


「アメ?」



 N2の反応を見るに、恐らくこれは、この星で初の雨だろう。

 だが、よく分からん星の雨だ。

 どんな危険を含んでいるか分からない。

 迂闊に触らない方が身のためだろう。


 しかし厄介だな……。

 星の変化は「天気」にまで影響するのか……。

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