16話 オトギバナシ

「昔々、あるところに、国民どうしのけんかがたえない国がありました。


 けんかの原因は、まずしさでした。


 一人一人が十分に食べていけるだけの食料が、その国には不足していたのです。


 王様は、なげきました。


『皆がおなかいっぱい食べることができて、昔のように笑顔で過ごすには、どうすればよいのだ?』


 いろいろな作戦を実行しても、いっこうに国民のけんかはたえず、みな笑顔とはほど遠い表情をしていました。


『食べ物はどうにもならない。ならばせめて、皆を笑顔にしよう』


 そこで王様は、国中から曲芸使いの人形たちを集め、とあるサーカス団を作りました。


『お前たちの力で、皆を笑顔にしてきておくれ』


『お安いごようです、王様。皆が笑顔になった世界をごらんに入れましょう』


 人形たちは国中をとび回り、さまざまな芸をひろうしました。


 花を咲かせるマジックショー、もうじゅうたちを使ったもうじゅうショー、力がじまんのかいりきショーなど、見たこともない芸を見た国民たちは大喜び。


 さらには、けんかで傷付いた人たちのちりょうがとくいな人形もいたため、サーカス団はいちやく人気者になりました。


 国民たちは笑顔になり、互いに手をとりあって協力しはじめるようになりました。


『お前たち、よくやってくれた。ほうびにこの星のくんしょうをさずけよう』


 サーカス団のお陰で、けんかのたえなかった国は、ゆたかになりました。


 国中の人々は彼らに感謝し、星のくんしょうをもらった彼らは、国のえいゆうとなりました。


 しかし、幸せは長くは続きませんでした。


 王様が病気でなくなったあと、王子が国の長となりました。


 王子は言いました。


『サーカス団を国から追放しろ!』


 サーカス団の人気にしっとした王子が、彼らを国外へ追放してしまったのです。


 怒った国民は皆でだんけつし、王子をこらしめようと考えました。


『皆のためを思ってやったことなのに! 目を覚ませ! 僕の言うことだけ聞いていればいいんだ!』


 国民はあきれ、やっぱり王子をこらしめました。


 その後、きずなを深めた国民たちは、もう二度とけんかをしないと約束し、ずっと平和にくらしました」




 ふぅ、我ながら上手く読めたんじゃないか?

 懐かしいな、そう言えばこんな話だったな。


「どうだった? 話、分かったか?」


 N2は、本を眺めたまま動かない。

 あれ、そんなに下手くそだったかな。


「あの……N2さん? よろしければご感想を……」


「あぁ、すまない。お話は理解出来たよ、それに上手だったと思う。ありがとう。ただ、少し悲しいお話だったなって」


 心なしかN2の目が曇ってみえた。


「王子は意地悪だったけど、結果的に国民は平和になったんだ。いい話じゃないか」


「国民達からすればそうかもしれない。ただ、サーカス団にとって悲しい話だと思う。せっかく皆を助けたのに……」


「あー、確かに言われてみればそうだな。この話の作者は何が言いたかったんだろうな」


 うーん、と二人で悩んでいると、

「作者はきっと、イモがたくさんあったら良かったのになって、言いたかったんだと思う」


「悲しそうにしてた割にはノリノリだなおい。安心しろ、それは絶対お前しか言いたいと思ってないから」


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