15話 ドクショ

 チップスの味はともかく、エネルギーは摂取せねばならない。

 気は進まないが黙々とチップスを口に運ぶ。


「そうだ、N2。さっき外で見たコケ、図鑑に似たようなのがあるか見てくれないか?」


「コケというのかあれは。構わないよ。図鑑を棚から降ろしてくれ」


「そうか、すまん。名前教えてなかったな。どんなだったか覚えてるか?」


「うん、印象的だった情景は画像として保存してるからね。たくさんは保存できないけど」


 へぇ、便利な機能だな。

 いつかディスプレイとか作れたら見せてもらうか。

 どうせメモリは芋ばかりな気がするが。


 布でN2の腕の油と土を拭い、ついでに俺の指先も拭い、本棚から植物図鑑を引き抜く。

 図鑑には詳しい説明は省いているが、その分数多くの種類が写真付きで掲載されている。


 図鑑を手渡すと、N2はそれを床に置き、物凄い早さでページをめくっていく。


「そんな勢いでちゃんと探せるのか?」


「載っていればね。今は図鑑に載っている写真を、ページ毎に記憶しているんだけど、図鑑内を一通り見て、最終的に一番似たものを探そうかなと」


 N2は1分程で図鑑のページ全てをめくり終えた。


「葉の形状が似ているコケはあったよ。この568ページのエゾスナゴケが先程外で見たものと酷似している。ただ、このコケは光を発しないから、別の種類のコケと考えていいと思う。さしずめ、〈ヒカリエゾスナゴケ〉といったところか」


 はっきりと覚えていないが、確かにこんな感じだった気がしなくもない。

 図鑑に同様のものが載っていないということは、新種として発現したコケのようだ。

 無事帰ったら記者会見だ。

 やることが一つ増えたな。


「イモの方は、似たような種類がありすぎてよくわからないや。全て載っているわけではないけれど、イモの種類を足し合わせていくと1000種類程あるそうじゃないか! すごいなこのヘンテコは!」


 N2の脳内で何が繰り広げられているかは不明だが、情報を処理する毎に遅れてくる感情の表現は、見ていて面白い。


「他に図鑑はないのか? もっと読みたい」


「図鑑なんて全然買った覚えないからなー。そんなにないと思うぞ?」


 本棚自体普段触らないからな。

 友人が忘れていったものや、同僚が嫌がらせで仕込ませたもの等、俺自身全てを把握しているわけではない。


「んーと、昆虫図鑑、動物図鑑、あと空想の生き物図鑑……誰だよ置いてったの」


 なんでこんなにあるんだよ。

 子供の頃でも滅多に買わなかったぞ。


「おほぉー、読ませてくれ!」


 一つ一つ手渡すと、N2は植物図鑑を閉じ、更なる知識を求め別の図鑑をめくっていく。

 本棚を見返すと、自分の知らない本が多数あることに気が付く。


「おー、懐かしいな。こんなもんまであったのか」


 幼い頃読み聞かせられた、昔々で始まるよくある童話の絵本。

 表紙がボロボロなので、恐らく俺が小さかった頃読んでたものが、ここに紛れていたんだろう。


「レイ、それはなにー?」


 ページをめくる手を止めて、N2が興味を示した。


「子供向けの昔話の絵本だよ。『星のヒーロー』っていう、色んな人達のケンカを止める人形の話。よくじいちゃんが読み聞かせてくれたっけ」


 じいちゃんとの思い出の一つでもあるこの本に、少なからず思い入れはあった。

 けれど、細かい内容までは覚えていない。


「聞かせてよ。どんなお話?」


「はずいな。やったことないから下手くそだぞ? きっと」


「いいよ。上手か下手かなんて、私には分からない」


 まぁそれもそうか。

 よし、やってやろう。


 椅子に座り直して軽く咳ばらいをし、期待の眼差しを浮かべるN2に絵本を見せながら、出来るだけ優しく、丁寧に語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます