5話 ツウシン
空といっても、辺り一帯は霧に覆われているので、雲があるとか鳥が飛んでいるとか、そういった事象は確認できていない。
時折上空の霧に隙間が生まれ、そこから赤みがかったものが見える。
おそらくこの星の空は少し赤っぽい色をしているのだろう。
その霧の隙間から垣間見える空が徐々に黒みを増していることと、視界が確保出来る範囲の減少からこの星にも夜が来ることを予想した。
星によって昼が続く星もあれば、その逆もあり、俺の住む星のように昼夜が一定時間で入れ替わる星もある。
この星の昼夜の周期がどの程度なのかは、N2に聞いても俺とN2の共通の時間単位の概念がなかったらしく、答えは聞けなかった。
そこで宇宙船内にあった壊れた古いアナログの目覚まし時計をN2に直してもらい、常に動く針が1秒を表し、長い方の針が動く間隔が1分ということを教えた。
短い方の針は何を指し示すのかと問われたので、俺の住む星の1日が24時間ということを伝えた。
そしてこの星で活動する以上はその時間の指標がほしいと伝えると、
「分かった。現時点での明るさを「0」とし、再び「0」に戻るまでの秒数を記録しよう。その秒数を2倍した数がこの星の1日となる、ということでいいかな?」
「あぁ。よろしく頼む」
まぁ正確に言うとこの星がどの程度の大きさだとか、俺たちが星のどの位置にいるかによって1日が変動してしまうので、単純にそういうわけでもないのだが、ひとまずそういうことにしておいた。
ちなみにこの時の本来の時間はというと、宇宙船内のデジタル時計は故障していて、俺が遭難してからどの程度経っているのかは分からなかった。
よってこの時のN2が観測し始めた時間から、遭難時間を記録することにした。
この星の夜がどういったものになるのか想像はつかないが、現状出来ることは限られているので、そのまま監督業を続けていた。
しかし、暗さが増すにつれて不思議と可視範囲が増加していることに気が付いた。
霧がだんだんと晴れている。
そして霧が晴れていき暗くなると同時に、辺りが赤みがかっていくことにも気づいた。
俺の住む星の夕方に似ている。
しかし空に太陽は見えない。
錆びたガラクタは周囲が見えるようになっても相変わらず落ちていて、所々へこんだ地面等も相まってなんとも不気味な光景を描いていた。
ここまで視界が開ければ危険もないだろうと考え、期待はできないが食糧調達も兼ねて周囲の探索をしようと決めた。
「なら、余っているミニN2を一体連れて行くといい。私にも状況が分かるように、カメラと映像通信機能と通話機能を追加しておくよ」
N2はそういって片手間でミニN2を探索用にアップグレードしてくれた。
「こういうミニN2とかアップグレードとかは、俺からするととんでもない光景を見せられているんだけど、そういう自覚ある?」
「ふふ、そうかもしれないね。けれど、今まで無駄にしてしまっていた時間を取り戻したいんだ。しばらくは君への恩返しのために全力を尽くそう。それに私はこういう作業が向いているようだ」
表情さえ変えないが、内心嬉しそうにしているN2を見て俺も嬉しく思う。
「じゃあ少し行ってくる」
「うん、気を付けてね」
ミニN2を肩に乗せて出発する。
怠さは少しマシになってきたか。
しばらく歩き、宇宙船が見えなくなるほどの距離まで来た。
ミニN2のカメラは前方しか捉えられないので、肩の上で向きを変えながら周囲を確認してくれているようだ。
相変わらず不気味な景色は続いているが、ミニN2のおかげで心細くはなかった。
このあたりで通話機能の確認でもしておくか。
「あー、マイクテスト、マイクテスト」
…
「あれ、N2聞こえてる?」
『「あぁ、問題ないよ。何だい?マイクテストって」』
そうか、日本語は通じるけど英語は通じないか。
N2が学習した資料は日本語だったからな。
そりゃそうか。
「通信確認みたいなもんだ。俺の国では、和製英語なるものが多く取り入れられていてな。無意識に使ってしまう時があるかも。分からない言葉があったら聞いてくれ」
『「なるほど。了解した」』
そんなやり取りをしつつ探索を続ける。
気付くと霧は無くなっていて、気温が下がってきたようにも感じる。
しかし周囲は依然夕方模様のままだ。
夕方の明るさの時間がしばらく続くのだろうか、はたまた夜は来ないのか。
それが今日だけなのか、未知の惑星では先の読めない恐怖があると学んだ。
『「レイ、君から見て右斜め前に何かある。注意しながら少し近づいてみてもらえるか? 私が危険と判断したらすぐに引いてくれ」』
最初はガラクタの山かと思っていたが、確かによく見ると違う気がする。
黒い生命体の手掛かりになるかもしれない、行ってみよう。
「OK。行ってみる」
『「おーけー? それも和製英語というやつかい?」』
「あぁすまん。これは純粋な英語だよ。分かった、とか了解、って意味。よく使うから覚えておいて」
『「なるほど。おーけー、おーけー」』
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