第28章

ガブリエルとアザゼルの力は、今や互角となった。互いに全ての力を結集し、


オーラを迸らせる。


対等の位置にあった二人の天使と堕天使は、相手めがけて突進した。


闇の力と光の力がぶつかり合う。それぞれの力は拮抗して、


闇の稲妻と光の稲妻が交差し、さらに増幅され爆発した。


アザゼルとガブリエルの両手が組み合う。


紅蓮の瞳は銀色の瞳を、


銀色の瞳は紅蓮の瞳を焦がすかの勢いでにらみ合った。




二人の回りの大気に異変が起きる。彼らを中心に大気が、


猛烈な速度で回転を始めた。


それは瞬く間に巨大な竜巻を生み出した。


耳をつんざくような轟音と大気が引き裂かれる衝撃波で、


ガブリエルとアザゼルの体は微震動する。




その光景に気づいた、地上の生き残った多くの人々が、天空を見上げた。


無数の瓦礫と波打った舗装路避けて、少しでも広く平坦な場所に集まりだす。




遥か上空に突然現れた、巨大な竜巻はまるでかつての古代神話に伝わる


バベルの塔を想起させた。


見上げる人々はどの姿も泥と埃にまみれ、薄汚れていた。


だが、誰しもの瞳は今、自分が見ているものに対して敬虔な思いと


畏怖の気持ちに輝いていた。


中には両手を合わせて祈る老婆がいた。そのそばで彼女に倣い、


同じように手を合わせて祈る少女もいた。


ひざまづき、胸で十字を切る者もいる。だがほとんどの人々は、


上空に浮かぶバベルの塔を、信じられない面持ちで傍観している。




突如、巨大な竜巻きの中心の上空に亀裂のよなものが現れた。


その亀裂は次第に裂けていき、大きくなっていく。


アザゼルとガブリエルは互いにそれに気づき、見上げる。


その空間の裂け目はまるで、別の時空につながっているかのように見える、


異様な暗黒だった。




その暗黒の裂け目から最初に足が現れた。そして漆黒の衣をまとった下半身。


次いで、上半身・・・・・・・頭部が見えた。


その頭部には巨大な黒い角が生えている。


全身は仄暗ほのくらい褐色で、背には黒い翼が6対―――12枚あった。


顔は端正なギリシャ彫刻を想わせる。髪はプラチナのような銀色の輝きを


放っていた。


その何者かは、ゆっくりとガブリエルとアザゼルの間に分け入るように


下降してきた。


アザゼルとガブリエルは組み合っていた両手を離し、対極に飛び下がった。




「貴様・・・・・?!」


最初に口を開いたのはガブリエルだった。


その表情は驚愕と、そして底知れぬ恐怖に慄いていた。




「なぜ、お前が現世に・・・?お前たちは召喚されない限り、


 来れないはずだ!」」


ガブリエルは銀色の瞳を見開き、12枚の翼を持つ者に問いかけた。




12枚の翼を持つ―――ルシフェルは答える。




「その通りだ。私は招かれたから現れた」




「招かれた・・・・・・?」


ガブリエルは唖然としたが、すぐに気づく。




「聖ジャンヌが・・・まさか?!」


ガブリエルは愕然としたように、そして自分を納得させるように呟いた。




「ガブリエルよ。地上の人間どもに死を与え、その魂を振るいに落とし、


 光の魂のみを手に握ろうとしたのは、神の意思か?


 それとも、お前だけの意思か?」


ルシフェルは問うた。




「私の意志は、神の意思だ」


ガブリエルは引きつった笑みを浮かべた。




その答えを聞いたルシフェルは、燃え盛るような赤い両目を見開き、


おもむろに右手を挙げ、5本の指をガブリエルの胸に、


楔のように打ち込んだ・・・・・・。

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