第15話

「お2人は仲がいいんですね」

「仲良くなんか.......!」


必死に言い返そうとしたものの、私の言葉を聞き流すような雰囲気で『うんうん』と頷いた。


「御堂君にそんなこと言われるなんて僕も嬉しいよ。

神崎ちゃん、ツンツンしてばっかだから嫌われてるんじゃないかなーって不安だったんだよね」

「そんな心配杞憂だと思いますよ」

「2人して勝手なことを……!」

「でも、いいことだよ。

恋人が突然いなくなって落ち込んで何も出来なくなる、なんて話普通にあると思うし。

今みたいに活発に行動できていれば十分だよ。

これも桐谷さんのおかげだね」


冷水の入ったグラスに口をつけながら御堂君は言った。

確かに桐谷のおかげで暗い気持ちよりも犯人を見つけたいという気持ちの方が大きい。

.......というより、それしか考えられないように上手く誘導されているのかもしれない。

実際桐谷と過ごす時間はかなり長いから考える隙を与えられていないから。

ただ犯人を早く見つけたいからなのか、少し私の気をつかってくれているのかは見当もつかないが。


「あぁ、そういえば確か高校生のときの話ですよね」

「話戻さなくていいから!」

「まあいいじゃん、桐谷さんとの仲を深めるためでもあるし」


これ以上桐谷と仲を深めるつもりなんてない。

だって相手は連続殺人犯なのだから。


「そうだよ、神崎ちゃん!

御堂君、聞かせて聞かせて」

「そんな大して今の神崎と変わりませんよ。

ただ昔の方がもっと棘がありましたけど」

「棘?」

「棘というか、近寄り難さ.......って言うんですかね。

神崎とは高校から同じだったんですけど、僕の通ってた高校はエスカレーター式なので外部からってなると結構注目浴びるんです。

それに神崎美人.......って本人の前で言うのも恥ずかしいけど、それで男子からも人気で」

「へぇー、モテモテだったんだ!」

「別にそんなことないよ」

「まあ実際告白する人は少なかったもんね。

男子の中では『高嶺の花』って感じだったから」

「高嶺の花、ねー.......」

「男子も少しでも印象残したいからかっこつけるんですよね。

それを気に食わない女子ってやっぱり多いから.......」

「あー、友達が作りにくいと?」

「正直私も何が正解かわからなかったけどね。

いつの間にか男子に囲まれてるわ、女子には睨まれるわ.......。

どう接すれば平和にいれるのかな、ってずっと考えてたよ」

「僕もどうにかしたいとは思ってたけど、良い案も浮かばなかった。

だけど、和人は違ったんです」


あの日のことはよく覚えていた。

和人はたまたま席が隣で普通に話す程度だった。

クラスの人気者で誰とでも話す良い人だということは教室で過ごしていれば誰が見てもわかるだろう。

そんな和人を羨ましく思いながら私は毎日過ごしていたのだ。


「ねぇ、和人。

今日クラスの何人か誘ってカラオケ行きたいって思うけど、どうかな?」


クラスの中でも明るい、所謂陽キャの彼女は和人の机に手をつきそう言った。

『クラスみんな』か……。

きっと私は誘われないんだろうな……なんて心の中で呟きながら携帯をいじっていた。


「へぇー、いいじゃん。

今日部活ないし、俺も行きたい」

「やった、じゃ行こうよ」

「おう、神崎は?」

「……え?」

「神崎も今日暇?」

「暇だけど……。

私が行っても……」

「いいじゃん、一緒に行こうよ。

はい、決定な」


なんて強引な人なんだ、と思いながらも嫌がることはできなくて力なく頷くだけだった。

その場にいた彼女は私にひどいことを言うことも鋭い視線を向けることもなく、ただ『楽しみだね』って笑ってくれた。

女子みんなが私のことを嫌っているものかと思っていたからその笑顔が新鮮ですごく嬉しかったのは今でも覚えている。


「あれ?

神崎さんも来てくれたの?」

「え、まじ?」

「和人が誘ってくれんだよ、みんな和人に感謝しなよね」

「まじか、そういえば隣の席だもんな」


放課後、クラスの何人かで集まりカラオケに行った。

向かうまでの間、何人かの女の子達が話しかけてきてくれて私は初めてクラスに馴染めることができたのだ。


「神崎さんってもっと怖い人かと思ったけど、全然だね」

「こ、怖かった?」

「なんだろ、大人っぽい雰囲気というか.......。

私たちなんかじゃ不釣り合いなのかな、って思ってた面があって.......」

「そんなことない、今日すごく楽しかったし.......。

それに嬉しかったから.......」

「ねぇ、咲ちゃんって呼んでもいい?」

「咲でいいよ」

「じゃ咲って呼ぶことにする!」


こうして少しずつ私はクラスの輪に溶け込むことが出来た。

これもあのときに誘ってくれた和人のおかげであってその日以来少し和人のことが気になるようになった。


「神崎」

「なに?」

「ちょっといい?」


季節は冬になり、1人だった時期が嘘かのように友達ができていた。

あれから何度も席替えをし、隣の人も変わった。

今は窓側の後ろの席で割と気に入っている。

隣の席は2度目となる和人だった。

そんな和人から呼び出されるのは初めてで何かあったのではないかと少し不安になる。

どこか緊張した表情で私に話しかけてきた和人を見て私も固くなってしまう。


「今日の放課後残ってほしいんだけど」

「わかった」


この後和人から告白され、付き合うことになったのだ。

教室の外から何人もの人が見ていたことに私達は気づかず、私がOKしたときには軽く悲鳴が響き渡った。

私達は顔を真っ赤にした2人で逃げ出したなー……、なんて思い出した。

今となっては楽しかった思い出と思うしかないのだが。

ぽっかり心の空いた感覚を和人が亡くなってからまた感じてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月輝く夜に、あなたと 山吹K @mkys

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ