第80話 理想とのズレ
やあ、おいらです。
まあ、子どもの頃考えていたことは「おいらは、高校に行くまでに死ぬな」
ということでした。自分でも哀れになるほど虚弱だったからです。お肉は食べられず、お刺身もダメ。みんなが好きなカレーライスだって、肉が入っている。嬉しくない。苦痛な給食。まあ、生きて中学までだと思いました。
ところが、小学五年生の時に、ヘルニア、というより脱腸が発見されまして、名門、虎ノ門病院に実姉の友だちの父親の伝手で入院、手術をすることになりました。おいらとしては「大平正芳元首相が死んだ病院だろ。縁起悪い」と思っておりました。
子ども病棟にはそれなりの物語があるのです。長期入院で、薬の副作用により、ムーンフェースになってしまっている子を見ていると、かわいそうというより、気味が悪いなあと正直思ってしまいました。小学年と幼少時は別の部屋なんですけど、なぜか、おチビさんが一人で、ふらりとしょっちゅうおいらのところにきて、なんだか、小賢しいことを言って帰るということが続きました。おいらは、その子になんか、悪いイタズラしてやろうと思いました。小さい頃から悪の権化だったのです。でも、それからおチビさんは来なくなりました。幼児ルームをのぞいて見ても見つかりません。退院したか、亡くなったか? 今となっては、知りようがありません。
おいらの部屋は三人用で、おいらの入院前からいたやつはおしゃべりが過ぎてるチャラ男で少々うざったかったけれど、まあまあ、親切でいいやつでした。しかし、後から来たやつは、足が悪いようで、絵に描いたような不良で、性格も荒く、早朝にチャラ男がTVアニメを観ていると「うるせー!」って怒鳴ったりしていました。食事は配給制なんですが、ベッドまでは届けてくれません。だから手術をしたりして動けない人は友だちが持ってくるのです。でも、足の悪い不良には友だちがいないので、仕方なく、おいらがやってやりました。
脱腸の手術なんて三十分で終わっちゃうんです。(当時)医師は「新記録だあ!」と喜んでいました。
さて、その日の夕飯。チャラ男は退院してしまったので、持って来られるのは足の悪い不良だけです。
その不良が、悪い足を引きずって、一生懸命に夕食を持って来てくれました。危うく泣きそうになりましたが、おいらは悔し涙以外は流さない者なので、ぐっとこらえましたよ。
その後、不良と仲良くなった気もするんですが、遠い昔のことなので忘れてしまいましたよ。
この手術後、おいらは急激に健康になり、この年齢まで生きているのです。不健康ですがね。おいらの勘は小学生の時から間違っていたのです。
本来は、小説を書いて、余ったバッテリーで駄文を書き、充電中に本を読みたいのだがうまくいかないという話だったんですけど、理想と現実はズラではなくズレますな。おいらはフサフサだよ!
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