第40話


なら私の寝所で


 夜迦は大神様を直視して、真顔で言った。


「ここはどうしても我慢がならない。あっちで


 夜迦は息を切りながら、きっぱりと言い切った。 

 一瞬呆気に取られた大神様は、夜迦の言葉に笑みをお浮かべになられた。


「夜迦よ。そう致そう。其方の寝所で限りなく愛し合おう」


 大神様はそう言うと、厭がる夜迦へ少しずつ近づいて、再び抱き寄せられた。

 激しく抵抗する夜迦を、きつく抱き上げられ


「其方の言う通りだ……」


 和かに言われた。


「其方でよかった……」


 そう言われると、スッと寝所を後にされた。


 お約束通り、大神様は激しく夜迦と愛し合われた。

 今迄夜迦と褥を共にしても、太古様の思いがいつも溢れ出て来ていた為、大神様は躊躇するところがあった。

 ご自身が何を求め、何に向かわれているかがお解りにならないから、夜迦を愛すれば愛する程、傷つけてしまうのではないかと、不安と恐怖に襲われておられたのだ。だが、その要因の一つであった寝所に、夜迦をお召しになられた事で、大神様は何かを吹っ切る事がおできになられた。

 今宵は、太古様の因縁も思いも全てを失くされ、ただ夜迦を激しくお求めになられた。



 大神妃となられたやか様は、それからも神山の頂きにある、太古様のお屋敷で過ごされたが、いくら時が経っても、太古様のお子を宿す事はなかった。

 やか様はひどく落胆された。

 それはひどく悲しまれて、毎日を過ごされた。

 だが太古様は、然程気にもされるご様子はなく、悲しみに明け暮れるやか様の為に、青龍の背にお乗せになって空を泳いだり、海の底の海神様の宮殿に遊びに行かれたりと、やか様を伴われてのお楽しみに明け暮れられた。

 そんな大神様のお心遣いで、やか様の気鬱も少しづつ和らぎ始め、おふたりの絆がより強くなられたと思われた、そんなある日……。

 太古様がご用事で遠出をされていて、やか様は寂しさを紛らわす為に、神泉で花々をひとり愛でられ、太古様があと幾日でお帰りになられるかと、待ち侘びておられると、辺りを真紅に燃やさんばかりの神々しさを放って、今が盛りの花々の美しさですら恥じ入るほどの、美しい女神様がご降臨された。


「貴女様は?」


 やか様は、目が眩む程の後光で、光り輝かれる女神様を仰ぎ見られた。


「其方が大神初の妃であるか?」


「やかと申します」


「ほう……。あの堅物が見初めた者にしては、美しいな」


 お美しい女神様は、マジマジとやか様を値踏みされる。


「なるほど、は意外と見る目があるな」


 笑顔をお向けになられたが、それはそれは輝いておられる。


「……して、妃となられたが、お子はおできになられたか?大神が誕生してこの方、大神の子を見た事がない」


「…………………」


「大神の妃よ。に召されるは、そう言う事であろう?それとも、人間が婚儀とやらをあげるが如く、はそういう所とお思いか?」


「畏れ多くもお美しい女神様、わたくしは何も知らず、大神様の意にお従い申しました。そのような事を解ろうはずもございません。どうかわたくしに指針をお示しくださいまし」


 やか様は畏まって、尊い女神様にお伺いを立てられた。


「私が示すものでもない。ただ、は大神が孕ます所と聞いている。ゆえに、其方は大神の妃となるのだ」


「女神様。わたくしは子を儲けられません。子を頂けぬこの身が、大神様のお側に在り、などと呼ばれては恥じ入る術もございません」


「さようであるか?のところは知らぬが……。ならば大神は何故其方をに召したのであろう?何やら聞いてはおらぬか?」


 やか様は女神様に引けを取る事のない、美しい瞳を向けられている。


「わたくしが子を望みましゆえ……」


 やか様は言いかけて、ジッとただジッと見入られた。




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