第66話 我慢できなかった。後悔も反省もしていない。


 二日後。


 住民総出で壊れた建物や壁を修理し、戦闘の跡はすっかり消えていた。


 町を覆う壁は木だけなく内側に土塁を盛り、太矢や砲弾への耐久性を上げつつ弓兵の足場として活用させる。全体の形状も四角から六角形に変更し、死角を減らす事で外敵への対処をしやすく設計し直す。


 町の広さも見直した。


 食料生産できる畑は壁の外にあり、有事の際には食料供給が断たれてしまう。壁の中でもある程度は生産出来る方が良く、その為のスペース確保に私の力は有用だった。


 取り込んだ地面を動かして一軒一軒の間隔を広げ、新しく出来たスペースに耕した畑を用意する。


 何を作るかは畑の主に自由にさせる。収穫物を交換し合う事で互いの繋がりを持て、収穫量を示し合う事で私の加護を再認識する事だろう。


 宿屋二階の窓から辺りを眺め、新しい生活スタイルを受け入れる人々に声に出さないエールを送る。



「しなずち様、失礼します」



 ノックもなく、入室の許可を出す前に部屋のドアが開かれた。


 テトのパーティの女ハイエルフ。


 薄手のシャツに、魔力耐性が高い草色のローブを羽織っている。短く揃えた金色の髪から水が滴り、大きな胸の間には小さな水溜まりをたたえていた。


 沐浴の途中で慌てて出てきたような装いだ。パルンガドルンガのように治安の悪い町なら、攫われて犯されかねない蠱惑的な姿。彼女がテトのモノでなければ、私もこの場で注いでいたに違いない。


 彼女は何かを探し、部屋を見回した。


 とはいっても、探し物は見つかる筈がない。


 ここにはベッドと机が一つずつあるだけ。彼女――彼女達が求める彼が隠れられる場所はなく、そもそも逃げてきていたら捕縛して調教をやり直している所だ。


 彼はもう、ドルトマやキュエレと同じ。私とヴィラの教えを流布する使徒なのだ。


 五人どころか、十人相手でも余裕でいてもらわないと困る。



「またテトが逃げ出したのか。一昨日から数えて四回目か?」


「申し訳ございません。教えて頂いた通りに首輪と足輪を付けてベッドに繋いでいたのですが、水刃の魔術で切断されて逃げられました。皆で探しているのですが、心当たりはございませんか?」


「強い匂いが町にあるから、まだ外に出てないと思う。それにしても逃げ過ぎかな? そろそろ次の町を攻略したいから、捕まえたら連れてきて。常時発情状態にして君達から離れられないようにするよ」


「かしこまりました。夕方までに捕えてまいります」



 彼女は軽く礼をして、踵を返すと素早く駆けだした。


 丁寧な応対に見えて、所作の一つ一つにハイエルフ特有の自尊心が鼻につく。ダークエルフの実力的自尊心とは違う、エルフ特有の種族的自尊心。長らく優勢種と扱われた歴史から、骨の髄まで自らを優れていると思い込んだ末の姿。


 いくらパーティでも、あれではテトの足を引っ張るかもしれない。


 人と人の間には親和性が必要だ。他を尊重し、受け入れ、時に踏みにじる。自他が混ざる必要はないものの、せめて触れ合ったまま反発せずにいられるくらいにはなって欲しい。


 普段は仲が悪くても、他と一緒にもみくちゃになって寝る猫のように。



「しなずち様っ」



 外から声がして顔を向けると、窓から羽衣を纏った少女が飛び込んできた。


 正面を開けて抱き着かれ、勢いのまま床に押し倒される。いつもの静かな印象を残したまま、積極性に肌を重ねてくる姿は発情した猫のようだ。


 四肢を形作る義肢を解かせ、俗にいう『ダルマ』の状態に彼女を戻す。


 私はこの状態の彼女が好きだ。仲間を救うために敵に捕まり、凌辱の果てに奪われた両手と両足。そこには犯され続けた絶望ではなく、芯の通った彼女の意志と命がある。


 私は耳元に顔を近づけ、そっと息を吹きかけた。



「おかえり、マイア」


「ふぁっ……ご、ご報告ですっ。び、白狐の多くは……あんっ……帝、国とは反対、にあるブルガ……んっ……のもりぃ……に、潜んでい、いますっ。総数……ひぐっ……は、ろっぴゃくぅっ……んっ」


「今、私達は二人っきりだ。ちゃんと報告できたら……わかるよね?」


「は、はぃっ! 六尾以上の、者、達は、自警団を組、織してっ…………ふぅ……んっ……帝国に備え、ていますっ。エハについて、は、存在を……知りませんっ!」


「…………そっか」



 ビクンビクン震える柔らかな肌を這わせるように撫で、脇腹から脚の付け根にかけてを重点的に揉みしだく。


 荒かった息遣いが更に深く大きくなり、感極まって私の肩に噛み付いてきた。これ以上は保たないという意思表示で、自由の利かない身体で必死に私を求め請うてくる。


 まだ聞きたいことがあったのだが、今はこれくらいで良いか。


 私は彼女を持ち上げてベッドに運び、覆い被さって口づけを交わす。


 熱と声と匂いが漏れるように、窓は開けたままにしておいた。もしかしたらテトが引っかかってくれるかもしれないし、マイアに自分が私のモノだと言わせて、後戻りできない様にもしてみたい。


 何より、私もそれくらいしないと収まらない。


 一昨日からずっと、住民達のピンク色の性活の中に身を置かなければならなかった。誰も連れてきていないから一人悶々と過ごすしかなく、マイアが来てくれたのはまさに僥倖と言えた。


 羽衣を剥ぎ、古傷だらけの身体をしゃぶるように味わう。


 艶声と嬌声の独唱を聞くと全身の血が猛った。一滴漏らさず興奮の中に意識を投じ、私は抵抗できない身体の女性に、己が衝動をぶつけ続けた。

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