第69話 レーダー

 霊感のある人ってさ、色んな感じ方、捉え方をするよね。

 さっきの人みたいに、頭の中にチャンネルみたいなものがあるって人もいれば、また別の感じ方、捉え方をする人もいる。

 最初の方に、匂うだけの人、聴こえるだけの人の話もしたっけ。霊感ってのは、十人十色だね、ほんと。

 じゃあ、次は、まさに霊感、霊を感じる人の話をしようか。


 —レーダー—


 その人の霊の感じ方は、これまた変わったものだった。

 なんでも、レーダーのようなものが脳に備わっていると。

 視えないらしいんだよ、霊の姿は。声が聴こえるわけでもない。匂いもしない。小突かれたり、ちょっかいを出されたこともない。

 でも、確実に、そこに幽霊がいるっていうのが分かるんだそうだ。

 何もない空間。でも、確実に、何かがいる。それが何なのかは分からない。けれども、感じることができると。

 それも、目の前だけじゃなくて、遠くにいるモノも感じることができるんだそうだ。

 上手く言い表せないんですけど、半径何メートルとか、そういう感じじゃなくて、少々距離があっても分かる、って言った方がいいかなあ。市内じゃ分からないけど、町内なら分かるって感じです。

 変わってるでしょう?そんな人、他にもいるんですか?

 尋ねられたけど、僕はそんな人に会ったのは初めてだったよ。

 旅行なんかに行くと、あ、あの建物に何かいるな。あ、そこの橋、何かが多めにいるな、ってのが分かるんだそうだ。

 昔から、この感覚は何なんだろうって思ってたんですけど、レーダーに反応があった所を調べると、事故が起きてたり、事故物件だったり、心霊スポットだったりしたんで、そういうものなのかなって。

 街を歩いてても、分かるんですよ。ただ、私のレーダーって、小っちゃいモノも拾っちゃうのか、昨日までそこにいたのに、次の日には消えてるとか、そんなことも、しょっちゅうなんですよね。逆に、ずうっと同じとこにいるモノもいるし、幽霊にも弱い強いがあるんでしょうか。

 どうでしょう。しかし、便利なものですねえって僕が言うとさ。

 そういうわけでもありませんよって、苦い顔をしながら、こんな話をしてくれた。

 ある日、家に一人でいた時のこと。ふと、レーダーが反応した。

 あれ、近所に何かがいるな。

 これは・・・、ああ、あのパン屋さんの近くだな。ビルの前の通りだろうか。あの辺を、何かがうろうろしているなあ。

 今まで、あの辺に何かがいたことはなかったのに、急にどうしたんだろう。まあ、放っておけば、いつもみたいに消えるでしょ。

 そんなこと、日常茶飯事だったから、気にも留めなかった。いつもの調子で、家の雑務をしていたら、ふっとレーダーで捉えていた何かが消えた。

 ああ、消えたな。何だったのかな。通りすがりの幽霊だったのかな?すぐに消えちゃったから、多分、弱っちい幽霊だったんだろうなあ。


 —————なめんなよ。

 

 え?

 部屋の中で声がした。半笑いのような、男の声が。

 困惑していると、部屋の隅に置いていた姿見が、

 ガタン!

 と倒れた。

 一気に血の気が引いて、着の身着のまま家を出た。財布を持ってくる余裕もなかったから、近所の公園のベンチに座って、呆然と過ごしたそうだ。

 何が怖いって、今まで当てにしてきたレーダーが、一気に信用できなくなったことですよ。

 今でも覚えてます。声がした瞬間、部屋の中はおろか、家の中すら、レーダーは反応しなかったんですよ。一切、存在を感じ取れなかった。

 どういうことか分かります?

 私はレーダーのおかげで、棲み分けが出来てたんです。安全地帯と危険地帯の。

 その境目が崩れたんですよ、それ以来。部屋に一人でいることが、怖くなったんです。

 あの声の主が、いまだに潜んでいるんじゃないかと思うと、私は・・・。

 ちなみに、今でもレーダーは機能しているみたいなんだけど、あんまり当てにはしていないそうだよ。

 何だったのかな?その声の主って。

 幽霊に弱い強いはあると思うけど、そのモノは何か特別な存在だったのかもね。瞬間移動できるし、レーダーを掻い潜る、いわばステルス機能もあったわけだし。

 幽霊にも、能力とか、スキルがあるものなのかな?なんだか漫画っぽいね、ハハ。

 

 

 

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