第52話 トンネルの人影

 ついでにもうひとつ、トンネルの怖い話をしよう。

 トンネルって山の中とか、人気のないとこにあるからか、心霊スポットとして成立しやすいんだろうね。そういう話はごまんとあるんだ。

 中には都市伝説になって、伝承みたいに語り継がれてるトンネルもある。

 一体何が引き付けるんだろうね。墓地や病院みたいな場所でもないのに。


—トンネルの人影—


 知り合いの友達から聞いた話。

 その人はいわゆる視える人でね。たまにこの世の者じゃないモノを見ることがあるそうだ。

 ある時、遠方の親戚に会いに行く為に、車で長旅をすることになった。

 県を二つほど跨ぐ行ったことのない遠い所。それも高速道路から外れている地域だから、行くのには大分時間がかかる。

 そんな見当もつかないような辺鄙な所だから、カーナビを使って車を走らせた。最寄りの高速インターで降りても、下道で一時間半はかかる道のりだった。

 ちょっとゲンナリしながら運転していたら、高速を降りてすぐに山間の道路に入った。グングン進んでいくと、次第に中央線が消えて狭い道になっていく。

 本当にこの道、抜けられるんだろうか。そんなことを思いながらひたすら進んでいったら、見たこともないような狭いトンネルが現れた。

 ええ・・・。

 思わず車を停めた。明らかに狭すぎる。距離は短いけれど、車二台がすれ違うことも出来ないような、幅のないトンネルだった。

 よく見ると、トンネルの内部はゴツゴツしてて舗装されている風でもない。どうやら手掘りの、大昔に人力で掘られたトンネルらしかった。

 いくら何でも古すぎるだろう。大丈夫なのか、このトンネル。

 内部が今にも崩落するんじゃないかと心配になるくらい、ボロボロだった。

 どうしよう。でも今更引き返せないし、しょうがないか。

 覚悟を決めて、対向車が来ないように祈りながらトンネルに乗り入れたそうだ。

 早く出たいけど、狭いから飛ばすのも怖い。仕方なくゆっくり通過していたら、急に背筋が寒くなってきた。

 あれ、ヤバイこの感じ。ここってもしかして、そういうとこだったのか?

 狼狽えながらもノロノロ走っていたら、出口付近に幾つかの人影が見えた。

 あ、ヤバイなあ。あれは違う人たちだ。

 なぜか遠くからでも分かったそうだ。絶対に生きている人間じゃない。

 状況からしておかしいしね。民家もない山の中だってのに、歩いている人がいるわけがないんだから。

 どうしよう。でも突っ切らないと通れないし、今更バックで引き返す度胸もない。

 迷ったけど、そのまま突っ切ることにした。人影はシルエットでしか見えないけど、生きてるわけじゃないから轢いたって構わない。

 段々と近付いて行って、いよいよ出口に差し掛かった時だった。人影が目と鼻の先に迫った。

 遠目からだとシルエットに見えた。でも、違っていたんだ。人影自体が、真っ黒だったんだよ。まるでモザイクをかけたみたいに。

 その真っ黒な人影たちがトンネルの出口付近で、手をつなぐみたいに連なって、通せんぼするかのように道に立ってたそうだ。

 うわあああああっ。やばいけど突っ切るしかないっ。目を閉じたままアクセルを踏み込んで、その一団を蹴散らすように車を走らせた。

 恐る恐る目を開けると、何事もなく通過した様だった。怖々バックミラーを見ても、後ろにあの人影が、なんてことはなかった。

 あれは一体何だったのかなあ。無事に通過したことに安心しながら、その後もしばらく車を走らせて、ようやく目的地に辿り着いた。

 ほとんど初めて会う親戚に出迎えられて、用事を済ませていると、道中が長くて大変だったでしょう?って話になった。

 ええ、中々遠かったですよ。初めての道ですから、ちょっと不安でした。

 わざわざこんな所まで、ご苦労様でしたねえ。

 いえいえ。そういえば、途中で手掘りの古いトンネルを通りましたよ。狭くて、通る時はヒヤヒヤしました。

 そう言った瞬間に親戚の顔が曇った。

 ・・あの、何か?

 ・・・ああ、あのトンネルでしょう?何もなかったですか?

 その言い方に違和感を感じて、聞き返した。

 ええと、その・・・、色々と不思議なものを見ましたけど。何かあるんですか?あのトンネル。

 あなた、もしかして視える人なんですか?

 どうやらその親戚も血筋なのか、視える人だったらしい。件のトンネルでは、通るたびに真っ黒い人影を見かけるそうだ。

 あの人影たち、まだいるんですねえ。私はもうあの旧道を通らなくなっていますから、滅多に見ることはなくなったんですが。

 あのトンネルって、なにか死亡事故でもあったんですか?

 ・・・それがねえ、あのトンネルでは何も起きていないんですよ。別に自殺スポットっていう訳でもないし。

 えっ?じゃあ、あの人影たちは・・?

 ・・・あの旧道はねえ、昔は車通りも多かったんですよ。あの道しか市街地に通じていませんでしたから。それでいて山道だから、車を飛ばす人も多くてねえ。あちこちのカーブで死亡事故が起きていたんですよ。

 ・・そういえば、死亡事故注意の看板を見かけたような・・。

 それでね、なぜかあの旧道付近で死んだ者たちはね、トンネルに集まっていくんですよ。

 ・・・トンネルに?でも、トンネルでは事故が起きていないって。

 ええ、そうなんです。でもなぜか、集まって来てしまうんですよ。あのトンネルには。死んだ人間の数だけ、増えていくんです。手を繋いでいたでしょう?

 ・・・・。

 帰り道は別の道を教えてもらったそうだ。

 あんなことは初めてでしたよ。車で幽霊を轢いたことも、そこが事故現場じゃなかったってことも。

 その人は苦笑いしながら話してくれたよ。

 たまにそういう話を聞くけど、なんで旧道で死んだモノたちはトンネルに集まっていたんだろうね?地縛霊的なモノなら、死んだところにずっといそうなものだけど。

 やっぱり、トンネルってモノを引き付ける何かがあるのかな?

 それも手を繋いで現れるなんて。そこにいたモノたちは、寂しかったからみんなで集まっていたのかな?はは。

 

 

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