第30話 すれ違い
ん?ああ、もう三十話目か。十話毎に僕の話をする約束だったね。
ええと、友達の部屋に行ったとこまで話したのかな。まだ何も変なモノは出てきてなかったよね。
はは、言い方が気になるって?安心してよ。まだまだ出てくるのは先の話だから。
—すれ違い—
親友の部屋で僕は呆然としてた。親友に一体何が起こったのか。この部屋の有り様は何を意味しているのか。考えたって分からなかったけれど、その時不安を通り越して恐怖していたのは確かだよ。
友達の身を案じてはいたけど、一刻も早くこの場を離れたかった。パソコンを閉じて、クラクラしながら外に向かって、ドアを開けるなりへたり込んだんだ。
座ったままもう一度親友の携帯に掛けてみたけど、やっぱりつながらない。そいつの職場や家族の連絡先は分からなかったし、どうしようもない。いつものメンバーに聞いてみても何も知らない様子だったし、八方ふさがりだ。どうしちまったんだよ。そう言って落ち込むことしかできなかった。
仕方がなくそのまま帰ったんだ。ずっといたって帰ってくるかは分からなかったし、待つために部屋の中にいるのも嫌だったしね。
来るのに時間がかかったから、帰るのにだって時間がかかる。家に帰り着いたのはもう昼過ぎだった。
帰り着いて、一日を台無しにしちゃったなあ、なんてぼんやり考えてたら、インターホンのモニターがピカピカ光ってるのに気が付いた。
光ってるってことは、出かけてた間に誰かが訪ねてきたってことだ。僕のアパートのインターホンって、結構いいやつがついててさ。モニター付きで、来客を録画しておけるんだ。
誰が来たのかなって再生したら、ニット帽をかぶった変な男が映ってた。何だこいつ、こんなの知り合いにいないし、宗教の勧誘でもなさそうだし、不審者かな?って思った。怪しいなあ、怖いし、消しておこうって考えてた時、ふと既視感を感じた。
あれ、このニット帽。どこかで・・・。
思い出した瞬間に愕然としたよ。親友のニット帽だ。
はっきり思い出した。大学生になりたての頃、親友と一緒に大学デビューしようぜって息巻いて、普段いかないお洒落な服屋で奮発して買ったニット帽だ。
色違いのものを僕も買ったから、見覚えがあった。結局僕はほとんどそのニット帽をかぶらなかったけど、ちょっとした思い出だったから捨てずにとっておいた。それは親友も同じはずだった。あいつの部屋でみつけて笑い話をした覚えもある。
それを身に着けてるってことは。もう一度モニターの中の男を確認してみた。深めにかぶってて分かりづらかったけれど、まぎれもなくそいつは親友だった。
なんで暑い季節に似合わないニット帽なんか着けて家に来たんだ?一度デートした女の子に似合ってないよって馬鹿にされて以来、そのニット帽はかぶらなくなっただろ。疑問に思ってたけど、部屋でのことを思い出したら合点がいった。
部屋にはあちこちに大量の髪の毛が散乱してた。
てことはつまり・・。やっぱりあれは親友のものだったんだ。だったら納得できる。散乱してた髪の毛は根元がくっついてたグロいものもあったし、頭部は相当悲惨なことになってたはずだ。だとしたら出掛けるのに隠す必要があるよなあ。
そうぼんやり考えてたら怖くなった。なんでそんなことをしたのか分からないし、連絡がとれないのに家に来るなんて、何か目的があるのか?知られたらまずいようなことに巻き込まれでもしたのか?
ともかく、お互いにすれ違ってしまったわけだ。怖々しながら、心のどこかで少し安心したよ。こんな親友に会いたくはなかった。対面するのが怖かった、って言った方が正しいかな。
モニターの中の親友をもう一度見たら、なんだか怯えてるっていうか、不安そうな目つきだった。挙動不審だったんじゃないかな。なんとなくそう思ってた時だった。
ピンポーン。
画面が切り替わった。つまり外のインターホンが押されてる。来客があったってことだ。
モニターには来客の顔が映ってた。そこにいたのは———。
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