第29話 ボールプール

 さっきの話もそうだけど、幼い子供ってどうして幽霊が視えたりするんだろうね?

 七つまでは神のうち、なんて言葉もある。七歳になるまではこの世とあの世の境界に存在できる、なんてね。実際、子供がこの世のものではないモノを見る話は多く存在してる。

 僕が集めた怖い話の中には、幼少時の奇妙な体験談って結構あるんだよね。その中のひとつを今から話すとするかな。


 —ボールプール—


 大学の同級生から聞いた話。

 そいつがまだ幼稚園に通っていたくらい幼い頃のこと。母親と一緒に近所のショッピングモールに買い物に出かけたんだ。

 そいつは、はっきり覚えてるわけじゃないらしいけど買い物の途中、何かの理由で愚図って機嫌が悪くなったらしい。必死に自分をなだめる母親をぼんやり覚えてるそうだよ。

 それで機嫌を直そうとして、母親はキッズコーナーに連れていってくれた。ほら、ショッピングモールの中によくあるでしょ?カラフルなクッション椅子で仕切られてて、子供が転んでも安全なようにこれまたカラフルなマットが敷かれてる場所だよ。滑り台とか、絵本なんかが置いてあるようなとこ。

 そこに着くなり、さっきまでの不機嫌はどこへやら、嬉しくなって遊び始めたそうだ。子供って単純だよね。まあそれが子供なんだろうけど。

 キャッキャ言いながら滑り台で遊んだり、クッションに寝っ転がったり、駆け回ったり。楽しく遊んでいたら、これは長くなると思ったのか、母親も近くのベンチに腰掛けてゆっくり休憩しだした。

 見守られてるんだから不安がることはない。そう思ってキッズコーナーの奥の方に遊びに向かった。そしたら奥の一画にボールプールを見つけたそうだ。

 ビニール製のプールにカラフルなボールがいっぱい詰まってる。他に遊んでいる子供はいなくて貸し切り状態だ。見つけたとたんにウキウキ気分で飛び込んだ。しばらくボールを投げたりして遊んでいたら、ふと思いついた。この中に隠れちゃえ。

 隠れて母親を困らせようとは思ってなかったそうだ。ただ思いついてやってみたくなっただけだったって。子供の発想らしいよね。無邪気というか。

 思いつくや否や、さっそくしゃがみこんだ。ボールプールは身の丈ほど深いわけじゃないから、匍匐前進をするみたいにもそもそ動いていたら、あっという間にボールの海に潜ることが出来た。そのまま何をするでもなしに、じっと底の方でほくそ笑んでたそうだ。

 けど、すぐに飽きてしまった。そりゃそうだよね。遊びたい一心の子供がずっとじっとなんかしてられない。つまんないの、そう思って立ち上がろうとした時だった。

 こしょこしょこしょこしょ。ひそひそ話してる声みたいなのが聴こえたそうだ。

 あれ?ほかに誰かいるのかなあ。おかしいなあ。僕一人だったはずなのに。

 そう思って耳を澄ましていたら、そのひそひそ話の声がだんだんと聴きとれるようになってきたそうだ。

 ・・と・・・るよ・・とこ・・に・・るよ。

 途切れ途切れだけど確かに聴こえる。同じ年代くらいの子供の声だった。どこから声がしてるんだろう?そう思ってボールプールから顔を出すけど、やっぱり誰もいない。首をかしげていたら母親が自分を呼ぶ声がした。

 ○○ー、もうそろそろいこうかー。遊びまわってすっかり上機嫌になっていたから、元気に返事をしてキッズコーナーを後にした。

 それでこの話は終わっちゃったんだ。えっ?何にもなかったの、って聞いたら、別に何もなかったよっていうんだよ。

 怖い話じゃないじゃんか、って僕が呆れて言ったらさ。そいつ、神妙な顔になってこう言うんだよ。

 でも、そのショッピングモールに出かける度にキッズコーナーで遊んでたけど、毎回同じ声がしてたんだよ。ボールプールの底で。小学生になってからはもうそこで遊ぶことはなくなったんだけどな。今にして思えば怖い話だよ、ってね。

 あと、こんなことも言ってたよ。

 結局はっきりとは聞き取れなかったんだけど、その声は多分こう言ってたと思うんだよな。

 ずっと、ここに、いるよ。

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