第20話 親友の家

 ええと・・・、今の話で十九話。次の話で二十話目か。どうかな?ちゃんと怖い話を語れているかな?

 ははは。まあその様子じゃ多分怖がってくれてるんだろうね。ならいいんだけど。まだまだ先は長い。どうかこのまま、ご清聴願うよ。

 なら、そろそろ僕の話を再開させようか。十話目に話した事の起こり。その後、僕は週末を待って親友に会いに行くことにしたんだ。


 ―親友の家―


 土曜日の午前中だったかな?そいつの家を訪ねたけど、玄関のチャイムを押しても反応がない。休みの日だし、寝てるのかな?一応その場でもう一度電話をかけてみたけど、ひたすらコールするだけでやっぱり出ない。

 留守かと思って諦めかけたけど、駄目元でドアノブに手をかけてみたら、なんと開いてたんだよ。

 なんだよ、えらく不用心だな。おうい、入るよ。声をかけて部屋に入っていった。割と広めの1LDKでね。何回か泊まったことがあるから、勝手はわかってた。廊下を通って、リビングに入ったけど誰もいない。相変わらずきれいなもんだったよ。そいつは潔癖の気があったから、ゴミクズ一つ落ちちゃいなかった。

 やっぱり寝室で寝てるんじゃないか?週末だし、酔っぱらって帰ってきて、そのままベッドインしたのか?しょうがないやつだなあ。起こそうと思って寝室のドアの前に立った時、初めて異様さに気が付いた。

 部屋に入った時から微かにしてたんだけど、変な匂いがしたんだ。何の匂いかわからなかった。他人の家の匂いなんてこんなもんだろうと思ってたけど違った。

 腐臭に近い匂いだったんだ。いや、初めて嗅ぐ匂いだった。何日も置いた生ゴミの匂いに、鉄の匂いが混じってるような、すえた匂い。

 一瞬嫌な予感がした。えっ、まさか。・・・いやそんなわけないよな。怖くなったけど、確かめるしかない。ノックして、入るぞって言いながらガチャってドアを開けた。

 寝室だから当然ベッドしか置いてない。なんてことない、どこにでもあるようなアルミラックの安ベッド。その上にね、布団がのたくってた。くちゃくちゃの状態で。それにさ、尋常じゃない量の髪の毛がこびりついてたんだ。

 そう、こびりついてたんだよ。引っ付いてるんじゃない。よく見ると、赤黒くてネチャっとしたものが混じってる。何匹かのハエがその周りをブンブン羽音を鳴らしながら飛んでたよ。多分だけど、頭を血が出るくらいズタズタに掻き毟ったらそうなるんじゃないのかな。

 気持ち悪くて見ちゃいられなかった。めまいがして壁にもたれかかってたら、それ以外にも部屋が異様なことに気が付いたんだ。

 ベッド以外には小さな机があるだけなんだけど、その机が置いてある横の壁に大きな穴が開いてたんだ。壁にだよ。殴りつけたのか、こぶし大の穴が開いてた。そしてなぜかその穴に紙切れが詰めてあった。

 それだけじゃない。部屋中は髪の毛で散乱しているし、ハンガーとか枕とか、そこらじゅうにズタズタで転がってるんだ。ハンガーはグニャグニャに曲がってるし、枕はどうやったのか、中のスポンジがめくれてボサボサになってる。プラスチックの破片なんかもあったけど、部屋の隅に目覚まし時計っぽいものが転がってたから、多分それのだろう。その周りに白い砂みたいなものが散らかってた。

 何が何だかわからなくなって吐きそうになった時、部屋の収納の扉がキィッて音をたてた。もう勘弁してほしかったよ。一体何なんだよ、何が起きてるんだよ。ビビってたけど、意を決して近付いてさ、ガタンって扉を開けたんだ。

 開けたとたんに中の物が雪崩みたいに落ちてきた。Tシャツに、ジャケットに、割れた卓上鏡、パンパンに膨らんだビニール袋に、ひびの入った衣装ケース、ぐちゃぐちゃのダンボールに、空のペットボトル、血の付いたティッシュとタオル、使用済みの割りばしに、皿の破片。

 ひどい匂いで鼻が曲がりそうだった。足元まで汚物に浸かってるみたいで、気持ち悪くて部屋の隅の机に逃げたら、置いてあるパソコンが開きっぱなしだった。画面は所々亀裂が入ってて、真っ暗だったけど、よく見ると電源はついてる。

 人のパソコンを覗くなんて趣味はなかったけど、なぜか見なきゃならないような気がしたんだ。その時はね。マウスが見当たらないからタッチパッドを動かしたら、画面が明るくなった。開いてたのは検索サイトだったよ。

 検索バーのところに文字が打ち込んであった。

 ”幽霊 感染”

 ろくな検索結果が出てきてなかったよ。見覚えのあるくだらないオカルトサイトとか、センスのなさそうなまとめサイトの記事が羅列されてた。

 なんでこんなものを調べたのか、気になったんだ。一刻も早くこの場所から出ていきたかったけど、親友がどうなったのか、何をしようとしていたのか気になって、恐る恐るバーの文字を消したんだ。そうすれば、ほら。検索履歴が出てくるでしょ?

 最近の検索ワードがいくつかしか表示されなかったけど、どれも妙なものだったよ。

 ”除霊 失敗”

 ”都市伝説 嘘”

 ”精神病 幽霊”

 ”盛り塩 効果”

 一体何がしたかったのか、さっぱり見当がつかなかった。ああ、そうそう。こういうワードも検索してたかな。


 ”百物語 方法”

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