三
ナツがその事実に気づいたのは神父が帰国してからしばらくたってからのことだ。たしかに神父の食べたピーナッツ入りのチョコレートが彼と接吻したことによってエミリーの口にも入ったのだろうが、それだけではなかったはずだ。
あのときサマンサが紅茶のポットに入れたのはピーナッツをすり潰したものだったのだ。ごく少量でも、エミリーにとってはそれも死の原因になったにちがいない。
そこは、思えば女ばかりの世界なのだ。ケリー神父はそこでは数少ない男性で、しかも若く、栗色の髪に青い目の美しい青年だった。シスター・グレイスのエミリーを見る目や、サマンサの妹を見る目に光る冷たいものは、嫉妬というものだったのだろう。
その件以来、ナツはサマンサが気になって仕方ない。血のつながりはないとはいえ妹を殺して何食わぬ顔をして神の教えを説く女に憎悪と嫌悪、恐怖を感じるようになった。
いつも見張っているようになった。あるとき、彼女と二人きりになったとき、あのことを糾弾してやろうと近づいた。
それはシャワー室で、当時は戸外にあり、使っていたのはサマンサ一人だけだった。
季節は夏だったろう。しのび足で近寄っていくと、暑苦しそうにサマンサが僧服を脱ぐのが見えた。はらり、と茶色の髪が白い肩に流れた。
その瞬間、ナツは忘れていた何かを思い出した。
サマンサは女だったのだ。そうだ、僧服をまとって髪をかくし冷たく青い目を光らせてはいても、彼女もまたまだ若く悩める女であったのだ。
それを思うと、ナツの胸に奇妙な哀しみと、同情のようなものが湧きあがった。
サマンサは突然シャワー室にあらわれたナツを見て驚いた。その瞬間、いつもは酷薄そうに見える青目がふしぎと美しく澄んで見えた。
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