「私だって最初はそう思ってここへ来たけれど、なんか、来てみると全然ちがってるじゃん。勉強のためとか、私たちを助けてくれるとかいうよりも……なんか、まるで、私たちに罰を与えるために……、苦しめるためにやっているみたい。私たち、罰を与えらえるために集められてここにいるみたいじゃない?」

 まさにその通りだ。

 美波は唇を噛んだ。

 そうだ。自分たちは、ここへ罰せられるために集められたのだ。 

 しかし、その目的はなんなのだろう。そんなことをして学院になんの得があるのだろう。

 学院長たちのいう〝堕落した女〟に罰を与えるためだけにこの大きな建物や設備は作られたのだろうか。想像すると、学生の美波はその異常性に眩暈めまいがしそうだ。

「この子……、どうしょう?」

 ふたたびその問いを声に出し、美香は憂いの溜息を吐く。美波もいっしょに溜息を吐きたい気分で告げた。

「養子先をさがしてもらうのが、一番なんじゃない……?」

「うん……。それが一番だとは思うけれど」

 それが一番だし、それしかないだろう。解ってはいても、美香の顔色は晴れない。

 ちいさな音がしたかと思い、美波が窓ガラスに目を向けると、滴がはじけている。

「あー、降ってきちゃった。ついさっきまで晴れていたのに」

 美波はやや驚き、心配した。もう洗濯して干してあるものもあるはずだ。別館では大わらわだろう。

 高い窓を見上げ、ガラスに伝う水滴を美波は美香と二人でぼんやりと眺めていた。


 消灯前、建物にひびきわたった悲鳴に生徒たちは身をすくめた。

「生まれるのかな?」

「予定が早まったみたいね」

 大部屋でそんな囁きが起こる。

 山本美香の様態が変わったのだ。産気づいたのだろう。美波は午後にあんなことを話していたせいもあって、気が気ではない。 

(どうか、無事産まれますように)

 美香は今一階の端の部屋にいる。そこには杉がいるが、一人で大丈夫なのか。こんなときにシスター・グレイスが不在なのが美波には腹立だしい。

「でもまだ九ヶ月でしょ? 早産になるのよね?」

 背後で生徒の呟きが聞こえる。それぐらいの知識は高校生でもある。

 皆、そわそわして落ち着かなくなった。

 同年代の美香が産みの苦しみと向き合っている現実は、恐怖すらもたらす。

 彼女たちもいつかはそんな経験をするのだろうが、それはまだ未知の世界のことである。

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