「シャーロット・ブロンテというイギリスの昔の作家が書いた小説に出てくる養護施設みたいな学校。劣悪な環境から流行病が蔓延し、死ぬ生徒も多かったんだ。それはフィクションだけれど、モデルはブロンテが実際に入っていた寄宿学校だと言われている。まぁ、昔のことだけれどね」

「よく知ってるのね」

 司城はやや得意気な顔になった。

「この学院ついてい調査する過程で、とにかくいろいろ調べまわったんだ。つまりマグダレン修道院というのもそんな感じで、過酷なものだったようだ。規律は厳しく、朝から晩まで働かせられ、シスターたちの精神的、肉体的、ときには性的虐待、さらには、まぁ、どこでもあることだろうけれど、年長の子から年下の子への苛め、強い子が弱い子をいじめるようなこともけっこうあったみたいだ」

「……」

 たしかにそれはいつの時代でもどこの国でもある。

「しかし一番最悪なのは、神父や司祭からの虐待だ」

 現代でも施設などでの虐待が報じられることがあるぐらいだ。昔はもっとひどかったのかもしれない。

「十にもならない女の子が、貧しさから盗みを働いて修道院へ入れられ、そこで過ごすあいだに神父に強姦されて妊娠してしまい、そのまま子どもを産むっていうケースもあったようだ」

 美波はぎょっとした。

「おかしな話だろう? その子は多分男と付き合ったこともないまま入れられ、少女時代をそこで過ごし、指導者であるはずの神父に強姦されてしまったんだ」

「神父さんが強姦するの?」

 びっくりしている美波に逆に司城はおどろいた顔を見せ、スマートフォンをいじる。メモ帳代わりなのだろう。

「そんなの今でもしょっちゅうあるさ。……ええと、この記事によると、最近、オーストラリではキリスト教関連団体で性的虐待を受けた人が、わかっているだけでも四千人以上いるっていう。そのうち二千五百人ほどはローマ・カトリック教会だ。カトリックは今でも独身でないといけないというから、それが一因じゃないかと言われているけれどね。口では神の教えを説きながら、そういうことする男がいるんだよ。フランシスコ法王が厳罰化したり謝罪したりしているけれど、その側近が逮捕されたこともあったぐらいだ。もっとも、毎日のように教師が問題起こしている日本で、文部大臣が謝罪するなんてこと、あまり聞かないんだけれどな。で、まぁ、話の続きだけれど、そして生まれた子どはどうなるかというと、」

 そこで司城はいったん口を閉じてから話し出した。

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