罪の家系 一
母の鞠江が学生時代にアルバイトで水商売をしていたことは本人の口から幾度か聞いたことがあった。当時はバブル時代といってひどく景気のいい頃で、母の口からもれる当時の記憶は楽しげですらあった。
祖母が若い頃に女優を目指していたという話も、ちらりと母の口から聞いたことがある。だが、パトロンを持ち、しかも……。美波はもう一度書類に目を向ける。
一時期立川で街娼――。
街娼……。高校生の美波でも、その字から意味はなんとなくわかる。つまり売春をしていたということだ。
事実を確かめようにも祖母は五年前に亡くなっている。
曽祖母については、その名前すら知らなかった。だが、その母の思い出話にも聞いたことのない曽祖母は芸者で、それだけならまだしも、ある男の妾となって、戸籍に父親のいない子を産んだのだ。
罪の家系……。そんな古臭い言葉が美波の頭上に石のようにのしかかってくる。
そして何よりも強烈なのは、美波自身のことだ。
(どうして……)
どうして学院側はこのことを知っているのだろう。
いや、美波当人のことは母が知らせたにしても、母のことや祖母、曽祖母のことまで知っており、なんのためにこうして書き記しているのか。
美波は狂ったように他のファイルを調べてみた。
「これには……ない」
あることに気づいた。
家系について書かれていないものもある。いや、書かれているのをまとめたのが最初の方のページで、後のページはごく簡素なものだった。
つまり、前半のページ分だけが家系のことについて詳しく書かれているのだ。
美波は混乱する頭で必死に考えてみる。
このファイル前半に記載されている生徒たちの顔を思い浮かべながら、あることにやっと気づいた。
この生徒たちは今現在、別館に滞在している生徒たちなのだ。
正確に言うと、全員というわけではない。ファイルに特別な記載がない生徒も数人いるが、ほとんどは現在別館にいる生徒たちだ。
そして、さらにあることに気づく。
ここに書かれている家系というのは、母親の家系なのだ。当人の母、さらにその母、つまり、祖母、曽祖母と、母親の家系をさかのぼっており、そこに父親の家系は書かれていない。
どうしてなのか、考えるまえに美波の思考は止まった。
足音が近づいてきたのだ。シスターたちの話し声も。一人はシスター・マーガレットだ。
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