八
恐怖と闘いながらも身体を外に出し、最後は窓にすがりつきながら、覚悟を決めて手を離した。
「うっ!」
地面にまではわずかな距離があり、美波は転んでしまったが、たいした痛みもなく、急いで脱げてしまったシューズをさがした。
「大丈夫?」
窓の向こうから聞こえる声に「大丈夫」と返して美波は闇のなかを必死に走った。
本館の建物にはところどころ明かりが灯っている窓が見える。今夜もなにか会議か話し合いがあったらしく、人影も見える。学院長室のあたりだろうか。
寮の部屋の窓を見回し、どこかから入れる場所がないかと見当をつけていると、人声がひびいてきた。美波は咄嗟に、近くの木の背後にかくれた。
自分の心臓の高鳴る音とともに聞こえてきたのは、よくわからない言葉だった。しばらく聞き耳をたてているそれが英語だと気づくが、何を言っているのかまでは理解できなかった。かすかに笑い声のまじった男性の声が響いてくる。
おそるおそる首を上げてみて、通り過ぎて行く人影に、一人は学院長であり、もう一人は……おそらく神父だろうと見当をつける。その後に数人の影も続く。
(チャールズ神父だわ……。あの人に頼んでみたら……?)
チャールズ神父なら助けてくれるのではないか、と一瞬考えてみたが、しかし側にいる学院長と、少し距離をおいてついてくシスター・アグネスを見て、そんな気が失せていった。さらに背後には杉らしき人影も見える。
学院長たちは、チャールズ神父を見送りに行っているようだ。気のせいか、三人の女たちはやけにはしゃいでいるように感じられる。
幸いなことに、彼らが出てきた玄関扉はそのままだ。
四人の影が完全に消えてしまったのを見届けて、美波は扉へと急いだ。
薄暗い廊下を進み、舎監室を目指す。
ホラー映画で怪物に追われるヒロインのような心境で、美波は心臓が爆発しそうなほどの恐怖と焦りを感じていた。涙が出そうだ。
ありがたいことに舎監室には鍵がかけられていなかった。つい先ほどまで誰かが使っていたのか、明かりもついている。
「えーと、名簿は……」
こういところは学院の古風というかアナログなところで、個人情報の管理が簡素なのは、おおいに救いだった。生徒や部外者が侵入するなど想定しもしなかったのだろう。
本棚のガラス扉の向こうには分厚いファイルが並んでおり、一冊取り出してみると、〝2000~〟と記入された文字が読める。入学した年のことだろう。その近くのを取ってみると、〝2005~〟と。
美波は急いで今年の分のファイルをさがす。
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