四
そしてこの学院に来てつくづく良かったと思う。
裕佳子は中学時代、ひどい
悪口を言われ、無視をされ、上履きを隠される、教科書やノートに落書きされる、などしょっちゅうで、他の生徒たちも見て見ぬふりし、親が教師に相談しても教師はなんの役にもたたなかった。やがて不登校になり、そのままだったら引きこもりになっていたか自殺していたかもしれないが、そんなとき家にこの学院のことを知らせるパンフレットが送られてきた。
聖ホワイト・ローズ学院――。聖なる白薔薇という名のミッション系スクールというのに母はひかれたらしい。
母によると、進学校ではなく、勉強より精神の学びにおもきを置いている学院で、入学試験もなく面接だけだという。勉強が苦手な裕佳子にしてはありがたい。
それも裕佳子のように事情のある生徒は学費免除にしてくれるという。
裕佳子は勉強もスポーツも平均以下で目立ったことのない生徒だ。それがなぜ目を付けられ苛められることになったのか、いまだに理解できない。教室で悪意を放ってきた苛めっ子グループの少女のぶつけてきた言葉が今でも耳によみがえる。
(あんた、太々しいんだよ! ブスのくせに!)
今でも眠れぬ夜には、この言葉が耳にひびいてくる。どうして何もしていないのにああも憎まれないといけないのか。激しい怒りが裕佳子のなかでうずまく。
憎悪を投げつけられたことはそれが初めてではなかった。中学時代も、小学校時代も、なぜか裕佳子は苛めっ子たちに目をつけられやすかった。不器用で友人を作るのが苦手な裕佳子はかっこうのターゲットにされてしまうのだ。
中学二年のころ、母にちいさな個人病院のようなところに連れていかれ、そこの中年の医師らしき男にいろいろ質問されたあと、彼はひとつの言葉をこぼした。
アスペルガー症候群。
裕佳子はそういう病気――と呼んでいいのかどうかもわからないが――らしい。自閉症スペクトラムともいうらしく、裕佳子には今ひとつよく理解できないが、裕佳子が他者とうまくコミュニケーションがとれないのはそのせいだという。
(そんなことがあるもんですか)
裕佳子は唇を噛みしめた。
いつだって悪意や敵意をぶつけてくるのは他の人間で、裕佳子はつねに傷つけられてきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます