六
自分の着ている青いワンピースの制服を指さし夕子は説明し、訴えた。聖ホワイト・ローズ学院の異常性というか、普通ではないところを。
「そんなこと言ったって……、あんた、規則は守らないといけないんだし」
そう言う母は、よく見るとエプロンの下は父とおなじくジャージのズボンである。夕子は絶望的な気分になってきた。こういう親に制服が嫌だと言っても通用するわけがない。
「あんたみたいな子を引き取って、無料で教育してくれるんだから、ありがたいじゃない」
母は眉を寄せる。寄せた眉の下で、夕子とよく似た吊りあがり気味の目が困惑にゆがむが、それよりも夕子には「あんたみないな子」という言葉の方が気になる。
(妊娠したのは、あたしのせいじゃないじゃない。した奴らはなんにも咎められなくて、なんであたしだけが実の親からもそんなふうに言われなくちゃならないわけ?)
体育の授業でたおれて流産してしまったあと、父親は事情もろくに訊かずに夕子をなぐりつけ、母親は弟に悪い影響が出ないかとそればかり心配して泣いていた。
込みあげてくる怒りに言葉がうまく出ないあいだに、父がさらに追い打ちをかける。
「そうだ。逃げたらいかん。おまえ、すぐ帰れ」
分厚い手を、まるで犬でも追い払うように振りながら言う。
「冗談じゃないわよ! あたし絶対帰らないからね。もう、あんな学院辞めるんだから」
母が真っ青になった。
「何言ってんのよ、そんなことになったら、違約金払わないといけないのよ」
「へ?」
違約金という言葉に驚いた夕子に、母は言いつのってきた。
「あんたが卒業まであの学校、というか学院にいるっていう約束で無料で入学させてもらったのよ。もし、あんたが卒業せずに学院を出た場合は、違約金として三百万払わないといけないことになっているのよ」
「な、なんなのよ、それ?」
夕子は呆れた顔をしていた。そんな話はまったく聞いていない。
「学費も寮費もいっさい無料で入学させてもらう代わりに、それが条件なのよ。卒業まではちゃんといますっていう約束なのよ」
「そ、そんなこと言われたって……」
「さっき、電話で、すぐに戻ってくれば今回は許すって言われたんだ。ほら、すぐ帰れ」
「そ、そんな!」
父の冷たい言い方に夕子は腹が立って仕方ない。
「仕方ないだろう? 帰らないと三百万払うことになるんだから」
三百万はたしかに大金だ。しかし、そんな勝手な約束を、なぜ当事者である自分に一言も相談せず両親だけで決めてしまったのか、その点に夕子は腹が立ってしかたない。
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