五
インターホーンのブザーが壁についているので美波は押してみた。
「どなた?」
乾いた声が聞こえる。
「あ、あのぉ……シスター・グレイスに言われて来たんですが……。雪葉の、西条雪葉さんの荷物を持っていくようにと……」
やや緊張しながら言うと、しばらくしてドアが二つにわかれ、なかからシスターたちのように黒いロングスカートをはいている女性があらわれた。。
「名前は?」
「こ、近藤美波です」
「そちらは?」
「小瀬夕子です」
「昨日来た子の荷物ですね?」
「は、はい」
バッグと着替えを見て相手は確認する。
「入っていいわ。あなたたち、ちょっとあの子と会っていってあげて。昨夜から具合が悪いみたいで。……そこの階段を上がって行って、すぐの部屋だから。201号室よ」
「は、はい」
階段は木造で、どことなく暖かみがありすこしホッとする。
雪葉のことはやはり気がかりなので、美波と夕子は足早に階段をあがった。階段はやや急であり、外国映画に出てくる城塞を思わせた。広々とした学舎や寮にくらべると、かなり手狭な感じだ。
「ここだわ」
201という錆びた鉄のプレートのついた赤茶色の扉をノックした。
しばし沈黙。焦れて美波は声をかけた。
「雪葉……、いる? わたしよ、美波と夕子だけれど」
「……どうぞ」
そっとドアを押した。夕暮れも深まる時刻のせいで、明かりをつけていない室内はひどく暗く見える。気のせいだろうが、どことなく
「雪葉……」
狭い部屋である。寮の部屋より狭いが、驚くことに二人部屋らしく、ベッドが二つ並んでいた。
その片方のベッドで雪葉が、まるで冬眠中の動物のように、毛布をかぶってうずくまっている。頬はまた涙で濡れている。おそらくずっと泣きつづけていたのだろう。哀れになってきた。
「大丈夫?」
「うう……」
ベッドに近寄って床に膝をつくようにすると、側の台にプラスティックの洗面器があり、そこに嘔吐したものがあるのに気付き、美波はあわてて目をそらす。饐えた匂いの原因はそれのようだ。
「具合、悪いの?」
後から入ってきた夕子が低い声でたずねると、雪葉は首を振った。
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