五
その夜の夕食のメインは焼き鮭だった。ご飯と御味噌汁と白菜の漬物という質素な和食をゆっくりと食べる。シスターたちはいつもの半分しかいない。シスターたちは和食のときはあまり同席しないのだそうだ。
「もしかして、自分たちだけ美味しいもの食べてんじゃない?」
ほぐした鮭を食べながら夕子がそんなことを言う。美波は答えず、家で食べていたときよりもゆっくりと噛んで食べる。そうすると満腹感を得られるからだ。あまり好きでない漬物も食べてしまい、ここへ来てから残すことがなくなった。他の生徒も滅多に残さない。
その理由はよくわかる。与えられるカロリーが少ないのだ。
以前は一日のあいだに当たり前のように取っていたチョコやガム、キャンディー、スナック菓子、ハンバーガーやコーラのようなファーストフードやコーヒーのような嗜好品もここにはいっさいない。そういった食べ物はジャンクフードと呼ばれて、たしかに決して身体にいいものではないが、十代の子どもの生活からいっさい排除されてしまうとなると、これは相当きびしい。そんな生活が五日つづいただけでも口寂しくて仕方なくなり、日に三度の食事が貴重なものに思えてくるのも無理はない。それでもいつも何かしら残す生徒も何人かいるが、噂ではそのうちの一人は拒食症にかかっているらしい。
「ほら、また」
行儀悪く美波がその小食の生徒を箸で差す。今日も彼女は鮭の切り身が乗った皿を、他の生徒の空の皿と取り替えている。もらった生徒は喜々として食べる。
「あんなんで、持つのかな? ガリガリじゃん」
気になってつい美波も彼女を凝視してしまった。腕も首もひどく細い。もうこれ以上痩せたら病人ではないか、というほどだ。名は、たしか……、
(
おなじ青薔薇組だったのだ。教室でもいつもひっそりとしているが、小柄過ぎてかえって印象に残っている。
(シスターたちは何も言わないのかな……?)
拒食症ならちゃんとした治療をさせないといけないのでは、と美波は心配してしまうが、食堂の前で横一列にならんで食事している数人のシスターたちはまるで関心がなさそうで、黙々と食べている。そのなかにはシスター・マーガレットもいる。
キリスト教の愛と理念という言葉がそらぞらしく美波の耳によみがえる。
「ねぇ、なんか、面白いことになっているみたいだよ」
トイレに寄って少し遅れて帰ってきた美波に、夕子が目を輝かせてそんなことを言う。
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