淡々と言われて、雪葉の顔色が青白くなっていく。内心美波は同情したが、どうすることもできず、夕子とともに食堂へ向かった。


「あの後、雪葉どうするんだろう? シスター・アグネスにどんな返事するのか、見てみたいもんね」

「悪いでしょ」

 そんなことを言いながら混雑した食堂の席につき、テーブルの料理を見下ろした。夕食はご飯だったので、ほっとした。朝、昼とパンなら、一食ぐらいはお米を食べたいものだ。

 焼き魚と味噌汁にお漬物という和食。普段はそれほど食べたいと思わない料理がひどく美味しそうに思えるのは、全体にカロリーが控えめの食事ばかりとっていたからだろう。

 たいていの生徒は食事を残さず食べるが、なかにはやはりひどく小食の生徒がいて、食べきれないものは他の生徒にこっそり食べてもらっている。残すのは厳禁で、これもジュニア・シスターたちに見つかればカードを没収されるのだと美波は知った。

 そうして夕食があらかた終わって、生徒たちがほとんどいなくなったころ、ふらふらと食堂に入ってきたのは雪葉だった。なんとなく彼女のことが気になって美波は残っていた。

「どうだった……?」

 そんな言葉がもれたのは制服すがたの雪葉の顔色がひどかったからだ。

 この制服に着替えるのは彼女にとっては苦痛だったにちがいない。わずか一時間足らずのあいだに、持ち物をあらためられ、取り上げられ、スマートフォンも没収され、彼女は人生の価値観が逆転するような経験をしてしまった、と言えば大袈裟だろうか。

「髪を切れと言われたわ……。金曜の午後、あなたと一緒に校舎一階の〝控室〟に来るように、と」

 院長室の隣にある小部屋のことで、控室と呼ばれているらしい。学院の部外者が来たときはそこを使うという。

「食べる?」

 手つかずで残っているトレイは雪葉の夕食だ。一瞥いちべつして雪葉は絶望的な顔色になった。

「パパに連絡したいと言ったのだけれど、駄目だと言われたわ……」

冷え切った料理をまえにして雪葉はそんなことを呟く。

「こんなこと、信じられない。パパだって、まさか私がこんな生活するなんて思ってもいなかかったに違いないわ。絶対、間違っているわ……」

「うん……」

 そうとしか言いようがない。

 美波だって、まさか聖ホワイト・ローズ学院がこんな学校だったとは夢にも思わなかった。母から見せられたパンフレットには西洋風の荘厳な建物に緑の芝生のひろがる中庭という、豪華ホテルか夢のお城のようなイメージを抱かせる写真が載っており、それを見た美波は、ミッション系の私立のお嬢様校でしずかに聖書を読んでいる自分を想像しながら、新しい生活にほのかな期待を胸に抱いてここへ来たのだ。

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