六
三人は仕方なく廊下をすすみ、おもに美波が説明した。
「この渡り廊下の向こうは寮で、一階の向こうの端が食堂で、反対側の端が浴場で……」
「浴場って?」
「シャワールームがあるのよ」
美波の言葉にまた雪葉が眉をつりあげる。
「シャワーって……、個室にはないの?」
「ないよ」
あっさりと言う夕子に、雪葉の顔色が変わった。
「信じられない! え、じゃ、まさかトイレは?」
あっちよ、とトイレのある場所を指さす美波に雪葉が首をふる。
「そうじゃなくて、個室にはついていないの?」
「ないって」
またもあっさり言う夕子の顔は、どこか雪葉の狼狽ぶりを楽しんでいるようだ。その図太さがいっそ美波には羨ましい。
「じゃ、トイレのときどうするのよ? あの、つまり」
意味するところはなんとなくわかる。たしかに集団生活では悩みの種だ。
「慣れるしかないんじゃない?」
夕子の言葉はそっけない。
「まあ!」 雪葉ま真っ青になってから、怒りにか頬を赤くする。
「……神経の太い人はいいでしょうけれど」
「言っとくけど、あんたも明日の朝はトイレの掃除だからね」
雪葉は言葉を失くしてしまっていた。
「どこの学校だって掃除はあるでしょう?」
美波はとりなすように言ってから、ふと気になって訊いてみた。
「雪葉……さんは、出身はどこ?」
「雪葉でけっこう。北海道よ」
「へー、また遠い所から来たんだ」
夕子が意外そうにつぶやくが、言われてみれば、雪葉という名前とその透きとおるような白い肌に、なるほどと頷ける。
「そういうあなたはどちらの出身?」
夕子は横浜だと答え、美波も東京出身だと告げる。
「二人とも関東ね。やっぱりここは関東の人がほとんどなのね」
「そうでもないよ。岡山から来ている子もいるって」
「福岡の人もいるわよ」
夕子が言うのは裕佳子のことで、美波の言うのは晃子のことである。ふうん……、と雪葉が長い眉をまるめた。
「でも、なんであんたみたいなお嬢がこんな辺鄙なところに来たわけ?」
夕子の問いに、まるくなっていた雪葉の眉がまたもつりあがる。言われてみれば、美波も気になる。
「そういうあなたはどうして?」
「……親に行けって言われたの」
ぶっきらぼうに夕子は
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