「なによ?」

 たずねる夕子に尊大そうな口調で相手は言う。

「出しなさいよ」

 言われて二人とも目をぱちくりさせる。

「へ?」

「何を……ですか?」

 苛々したように目をすがめ、十代の少女とは思えないほどひどく憎々しげな顔付きを向けてくる相手に、美波は内心はげしい嫌悪を感じたが、どうにか顔に出さないよう努力した。

「カードよ、カード」

 ますます二人はこんがらがってくる。

「あの、カードってなんですか? わたしたち今日来たばかりなんですけれど」

 とりあえず美波は下手にでて丁寧な口調で言ってみた。

「あら、あんたたち新入生? カードもらっていないの?」

 数秒、相手は考えこむような顔をしたが、厚い唇を一回噛んで告げた。

「じゃ、今日のところはしょうがないわね。今日中か明日にはカードが渡されると思うから、それ持ってあたしのところに来なさいよ。あたしは二年黄薔薇組の貝塚寧々かいづかねね」              

 寧々というやや可愛らしいひびきの、まるで彼女に似合わない名前を告げて相手は背を向け去っていく。

 しばし二人は呆然として去っていく彼女を見送っていた。

「どういうこと? カードって。美波、なんか聞いてる?」

「全然」

 さっぱり解らない顔をしていると、先ほどの様子を見ていたのだろう、廊下に立っていた晃子が手招きしている。

「こっち、ここへ」

 すぐ近くの扉をあけ、掃除道具の置かれたちいさな物置部屋へと二人を招きいれる。薄暗い小部屋はかび臭い。

「廊下でしゃべっているとまた連中に難癖なんくせつけられるから。あなたたちカードのこと聞いていないの?」

 二人とも首を振った。シスターたちからも裕佳子からも特に聞いていない。

「本当にレイチェルって気がきかないわねぇ。わざとじゃないとは思うけど……」

 薄暗い室に晃子の白い肌が真珠のように光る。

「あのね、生徒は皆それぞれの組の色に合わせてカードをもらうことになっているのよ。私は赤薔薇組だから赤いカード。それを十枚もらうんだけれど、もし校則に違反するようなことがあると、ジュニア・シスターかプレに取られるのよ」

「なによ、それ? そんなこと聞いてないわよ」

 夕子が憤慨して声を荒らげた。

「しーっ。で、三枚取られたら、お説教されて、聖堂で懺悔。五枚取られたら鞭で手をたたかれるの」

「む、鞭って、冗談じゃないよ!」

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