夕陽の見える公園で

タクト

第1話 お前の弟の

 夢を見ている。


 随分と懐かしい夢だ。


 三人で仲良く遊んでいた夢。


 日が暮れるまでボールで遊んでいた夢。


 僕と弟と、今はいないもう一人――


「…貴、…って」


「…兄貴、…ろって」


「おい兄貴、いい加減起きろって」


 声が聞こえる。


「…んぅ、理久?」


「あぁそうだよ。お前の弟の理久さんだよ。ったく、ちょっとだけ待ってろって言ったのに何爆睡してんだ。おらもう帰るぞ」


「…あぁ」


 そういって僕ら二人は教室を後にする。


 教室にはもう残っている生徒は少ない。


 下校のピークは少し前に過ぎているので当然といえば当然だが。


「随分と時間がかかったね」


「まーな。下らない雑用なんか引き受けるんじゃなかったぜ」


「こらこら理久。そういうことは言うもんじゃないよ」


「待ってる間にグーすか寝てた兄貴には言われたくねーな」


「返す言葉もないよ…」


「わかりゃいーんだ。…あそーだ。そういや兄貴にちょっとしたニュースがある」


 昇降口で靴を履き替えながら理久が僕に言う。


「何?」


「明日、転校生が来るんだってよ。さっき職員室で聞こえた」


「へぇ…」


「おいおい、いつものこととはいえ随分と興味なさそうだな」


「事実興味ないしね。そういう理久はどうなの?」


「別にどうでもいいわ。そういうのはノーサンキュー」


「そう…」


 そんな他愛もない雑談をしつつ僕たちは帰路に着く。


 もう学校に残っている生徒はほとんどいないようだ。


 沈みつつある太陽を横目に僕と弟は学校を後にするのだった。

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