夢一夜

星日生

夢一夜

 こんな夢を見た。

 夜中にどこからか、誰かがすすり泣くような声が聞こえてくる。そこは私の部屋で、私以外に誰かがいるはずもない。気味が悪くなって、あちこち探してみるが、やはり誰もいない。しかし、確かに聞こえてくるのである。

「誰だ?」

 恐る恐る、私は尋ねてみた。

「……助けてくれ」

 そう言ったのは、青白い顔の夏目漱石。

 そう、よく見かけるあの肖像そのまま、私の前に現われたのだった。

「助ける?」

 私は首を傾げた。

「何年も閉じ込められている」

「いったい、どこに?」

「ここは寂しい」

 そうつぶやくと夏目漱石は消えた。

 そこで目が覚めた。

 なぜ、あんな夢を見たのか。

 ファンというわけではない。夏目漱石なんて高校の授業でやって以来、手にした覚えもない。それほど関わりはないはずだ。

 不思議に思いながら、その日は家の用事をした。

 探し物ついでにクローゼットを片付けていると、学生時代に使っていた手帳を発見した。

 その中に千円札が一枚。そうだ、財布を落とした時のために、入れてあったのだ。それをずっと忘れていたらしい。

 最近は野口英世ばっかりで、旧紙幣である夏目漱石の千円札は、すっかり見なくなった。寂しいとは、そういう意味だろうか。あるいは、紙幣として使われなくなったことだろうか。

 手帳から、夏目漱石がじっと私を見つめていた。

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夢一夜 星日生 @HOSHI-hinase

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