第百七十二話 疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染と……
Dream side
それがどこなのかは分からないけど見た事がある気がする泉の前。
腰掛けるのにちょうどいい岩に二人仲良く並んで座り寄り添っているのは、まるで勇者と魔導士みたいなファンタジーな格好をした俺と天音。
寄り添う二人の左手薬指に輝く指輪が二人の婚姻関係を証明していて……その情景を目にして俺は確信する。
『ああ……いつもの夢だ』……と。
「約束した通りになったな。ちゃんと高校生の俺でも口説いてみせたぜ?」
「も~う……強引すぎ! あそこまで行ってたらどんなヘタレ君でも、そりゃ~言わざるを得ないじゃないの!」
「だってよ~、仲良くするのは早い方がいいだろ? 俺達には出来なかった高校生カップルってヤツを体験してもらわにゃ~。う~~ん良い響きだな幼馴染高校生カップル……」
「それは否定しないけど……」
俺に比べて天音は不満があるのか、至近距離の上目遣いという……狙ってやっているのかと思える瞳で見つめて来た。
「とっかかりが“アレ”だと私たちの始まり方と余り変わらない気がするんだけど?」
「ん~? そうかな……」
「……まあ私は良いけど……どんな状況だって私だけを求めてくれるのなら……さ」
「それだけはどんな世界でも、どの俺でも変わらないけど?」
「わふ!?」
夢の中の俺は未来永劫変わる事の無い事実を口にしてから、たまらんとばかりに天音を優しく抱きしめる。
一瞬驚いた顔になった天音だったが、すぐに笑顔で俺の抱擁を受け入れる。
「貴方がまた、必要ない罪悪感を持たなきゃ良いな~ってだけなんだけどね……」
“向こう”での俺達の切っ掛けが大切な仲間との死別という、明るくない理由だった事。
俺の中で彼女に対する罪悪感があった事を彼女はずっと気にかけていたのは知っていた。
彼女自身はその辺を一切気にしていない事を分かってはいたのに……。
ただ……今の高校生の
「悲しみや怒り、失う恐怖を誤魔化す目的でって事はもう無いと思うぞ? 純粋な愛欲で天音を求めるなら言う事は無いからな~」
「…………そっちならそっちで心配な気もするけど」
そう言いつつ俺たちは顔を見合わせて笑い合った。
「実年齢で言うと私たちよりも2年早いって事になるのよね…………」
「まあ…………溺死はしないと思うけど……」
*
Real side
「……大きなお世話だっての」
目覚めた瞬間、俺は枕の横にしっかりと鎮座する『夢の本』を確認して……溜息を吐いた。
本の表紙に描かれた鳳の紋はしっかりと窓の方角、天音の部屋を向いていて……恐らくは『共有夢』で天音も同じ夢を見ただろう事を察する。
ただ……昨夜見た夢は今までと少々毛色が違った。
あの手の夢を見た時は『明晰夢』として天音と一緒に夢を楽しむか、もしくは俺が一方的に楽しむかの2択……。
後者の場合、俺は顔を真っ赤にした天音に早朝から説教を喰らう展開になるのに……昨晩見たのは何だったのだろうか?
『過去夢』とも『未来夢』とも違う……天音との疎遠解消の切っ掛けになった『明晰夢』と似ているようで違うような……?
俺がベッドから起き上がったまま首を傾げていると、爽やかとは真逆のけたたましい“バン!!”って音と共に部屋のドアが開かれた。
「こら~! 起きろお兄ちゃん!! 麗しのお義姉様を待たせるなど今世での最大の罪と知れ!!」
「うおう!? ノックぐらいしろよ!!」
突然すぎる妹夢香の登場に俺は飛び上がった。
起こしに来てくれたのは良いけど、相変わらずノックと言う概念の希薄な妹である。
爽やかな朝を一瞬で崩された兄の訴えを妹はどこ吹く風と受け流して、非常にイイ笑顔で言い放つ。
「早く着替えろ、顔を洗え! 朝飯掻っ込め! 一秒でもアマ姉を待たせるのは義妹たるこの私が許さん!!」
・
・
・
「おっはよ~アマ姉!」
「あ、おはよう夢香ちゃん」
既に家の前で待っていてくれた天音に夢香が元気よく挨拶する。
休日中にヤツの中ですっかりアマ姉呼びは定着したようで、少し前とは距離感が雲泥の差である。
女子同士の距離感と言うモノなのか……兄はそこまで至るのに相当苦労したと言うに。
あと、何気に俺の妹と言うよりも“天音の義妹”と言う地位を上位に見て、俺の生活態度を矯正し始めている気も……。
途中までは方角が一緒だからと共に歩いていたが、中学校への分かれ道に至ると夢香は俺に近寄って耳打ちした。
「じゃあお兄ちゃん……程々にね?」
「何が!?」
「じゃあアマ姉、お兄ちゃんの事宜しくね」
答えをくれず、夢香は中学へ向かって走り去っていった。
そして訪れる、なんとも言えない沈黙……。
チラリと天音の顔を覗くと、彼女は若干俯き加減で……顔を赤く染めていた。
夢香の言い残した言葉の意味……実は聞くまでも無く分かっている。
連休中にあった温泉ホテルプチ旅行の最終日、俺は天音に想いを伝えた……そして天音も答えてくれた。
晴れて俺達はもう幼馴染では無い男女の仲、恋人同士となった。
そして今日はアレから初めての月曜日……恋人同士になってから初めての一緒の登校なのだけど……。
「……オッス」
「…………オッス」
何というか今の状況が……メッチャ恥ずい!
俯き加減に耳まで真っ赤にしてチラチラとこっちを見る天音も同じような事を考えているんだろう。
帰宅からインターバルを置いて顔を合わせた俺たちだが、厳密に言えば告白からの初顔合わせになる。
告白OKからの濃厚ディープキス、未遂だったけど一線を越える寸前まで行き……そしてバカップルの見本のような『カップル限定混浴』に深夜に一緒に入浴……時間を置いて冷静になればなるほど……やらかした感が大きくなっていく。
「い、行きましょうか……」
「そ、そだな……」
それでも学校に行かないといけないのは変わらないし、俺達が付き合いだしたという事実は変わらない。
言葉が詰まっても、恥ずかしくはあっても……天音に触れたい俺の心は変わる事は無い。
俺は“キスまでしといて何をいまさら”と自分を鼓舞して、意を決して天音の手をあくまでも自然に~~と思いつつ取る。
手を取った瞬間天音はビクリとするものの、特別嫌がる素振りも振り払う事も無く握り返してきた。
むしろ指をしっかりと噛み合わせる恋人繋ぎにして……。
下を向きつつ更に顔を赤らめる天音……大分恥ずかしいのにそんな事をしちゃう彼女に自然と顔がニヤけてしまう。
「……何か照れるね」
「昨日あそこまでやらかしといて、何を今更とは思うけどな……」
多分俺も耳どころか全身真っ赤っかだろうな……。
近所の知り合いのオバちゃんが俺たちを目撃して“スクープ”とばかりに目をギラつかせ携帯を操作するのが見える。
ご近所ネットワークの最新情報のつもりかもしれんが、おそらくこの件に関しての詳細を掴んでいるのは天地家と神崎家の
その辺は俺も天音も既に開き直っていた。
…………恥ずいは恥ずいが。
そんな感じで意外と歩幅を合わせる事が慣れない感じで通学路を歩いていれば、自然と馴染みの喫茶店『ソードマウンテン』の看板が見えてきて……今日も朝から元気に店先を掃除する年上の女性、剣岳美鈴ことスズ姉が“面白いモノ見つけた!”とばかりに話しかけて来た。
「お~おはようご両人! 良いね~青春真っ盛り、アツアツですな~~」
「いや……まあ……」
「あ、はい……」
昔っから面識のある姉貴分、俺たちの関係については疎遠の頃から随分と相談して世話になっていただけに、こういう祝福の言葉は嬉しいけど面映ゆいと言うか……コメントに困るな。
だが言葉につっかえる俺達にスズ姉は更なる喜びを見せてくる。
「う~~~ん、良いね! そうそう、お姉ちゃんこういうのが見たかった!」
「……? 何が?」
「付き合いたてで嬉しい反面恥ずかしさも残っている、でもお互い大好きだし触れ合いたい! そして思い切って触れ合ったのに恥ずかしさはやっぱりあって、でも離さない……良いね~こういう甘酸っぱい限定期間! 私が待ち望んでいたのはアンタたちのこういう姿なのよ!!」
「バ!?」
「ちょ!? スズ姉!! そんなハッキリ!?」
正にたった今抱えていた俺たちの心情をズバリと言い当てられて俺たちは驚愕と羞恥に身もだえる。
「んにゃ、その期間は結構大事よ? 断言するけどアンタたちは特にその期間が短いはずだから。保って一週……いや数日かな? それが過ぎたら終始べったりのバカップル化するのは間違いないから」
「「ブフ!?」」
スズ姉の勝手な見解に思わず二人して吹き出してしまったが、悔しい事に否定材料が一切ない。
昨夜やらかした事を考えれば間違いなく“そう”なるだろうし……。
「アタシとしては悪かないよ? でも小さい頃から成長を見続けて来た立場としては途中経過も気になるじゃん。大事な思い出としてファイルして行かないと」
「…………スズ姉、アンタどういう立場なんだよ」
若干呆れて俺がそう言うとスズ姉は途端に真顔になり、自然な動きでスススと天音からちょっと距離を取ると……真剣な声で耳打ちして来た。
「……温泉では急かす気は無かったけど、今日中に“お守り”を買っておきなさい」
「!? バ!? 何を……!」
一瞬コレもおふざけの延長かと声を上げそうになったが、スズ姉は真剣な表情を崩さずに俺の頭を押さえた。
「いいから聞け。お前が近日中、いや今日中にも天音ちゃんに手を出さない自信があんならそんな口出しはしないけど……確約できるか? ん?」
「…………」
スズ姉の忠告に俺も真顔になり……そして不思議そうに見ている天音の顔を確認して……確信する。
俺は自分自身を信じている。
付き合いたてですぐに手を出すなんて、そんな無粋な事をする事なんてあるはずが……。
「師匠……アレって幾らするんでしょう?」
告白直後にいたそうとした俺がこの忠告を無視する事はあり得なかった。
*
二人の男女、弟分であり妹分……そして弟子でもあった二人が死の渦巻く戦場では無い平和な朝日の中仲良く歩く後ろ姿を満足げに笑顔で見送りスズ姉は呟く。
「今度こそヤツらの結婚式には出席しないとね~~」
手にするのは戦場を駆ける為の剣ではなく掃除するためのホウキ。
そのホウキを両手で持ち「ん~~~」と背筋を伸ばして、聖剣士リーンベルこと『剣岳美鈴』は掃除を再開する。
もう自分が戦士では無い事を噛み締めるように……。
*
手を繋いで一緒に彼女と歩く。
チラチラと目が合うたびに頭が沸騰しそうになる程の恥ずかしさと、それを上回る幸福感に頭がふわっふわしてくる。
まさに夢見心地……段々じっとりとしてくる掌の汗が俺のか天音のなのか分からなくなってくるけど、そんな事は気にならない。
しかしそんな幸福感も慣れてくると“もっと”と上を要求してしまうのは有史以来の人間の悪癖とも言える。
もっと密着したい、もっと天音を感じたい……そんな欲望が脳裏をよぎると上目遣いの天音はスッと繋いだ手を解き……何も言わずにそのまま俺の腕にしがみ付くように、体を密着させて来る。
「…………」
「…………」
二人の間に言葉は無い……無いけど互いに考えている事は分かる。
俺達今……やらかしてるな~~~と。
密着した腕に伝わる柔らかい二つの感触に訪れる更なる幸福感とは別に、昨晩とは違った高揚感を禁じえない。
その高揚感の原因は、周囲の視線から察する事が出来た。
微笑ましく見て来る者もいれば、あからさまに『リア充爆発』の視線を送る男共もいる…………やべぇコレ、まるっきりバカップル丸出しの優越感だ!
図らずもこの状況に自分からなって初めてヤツらがワザワザ人前でイチャ付くのかが分かってしまう。
肴にしていたのだ……こういう自分たちに対するプラスもマイナスも織り交ぜた反応の全てを優越感にして。
く……俺もついこの前までは向こう側だったハズなのに……天音と言う最高の女性を彼女にした今……この優越感は抗いがたい!!
そんな娘が幼馴染で恋人で……いつも屋根伝いに俺の部屋に来て……昨晩何て寸前まで行ってしまったとか………………うん、俺は爆殺されるなコレ。
「コラコラ……仲の良いのは構わんが、男女交際は程々で頼むぞ」
「異性交遊は良いけど、校内で不純は認められないからね」
大分頭の悪い事を考えながら校門を通過した辺りで、苦笑交じりに注意して来たのは古文の名倉先生と英語の吉沢先生……。
多分服装チェックや遅刻の監視なのだろうが、俺たちはその二人が並んで立っている状況に若干冷静かつジト目になりつつ「「おはようございます」」とだけ返して通り過ぎた。
「……多分同じ事を思ったよな?」
「間違いなく……」
そして教師二人に聞こえないだろう距離まで離れたところで自然と組んでいた腕をほどきつつ……俺たちは顔を見合わせて頷きあう。
せ~の
「「お前が言うな…………」」
誰よりも校内で不純な交遊をしている、堅物だと噂の二人に対しての気持ちが示し合わせるでもなく必然的にユニゾンした。
*
「ん~~~~今完全に『お前が言うな』って顔をしてましたね」
「
「多少は“むこう”より落ち着いた関係になれば良いのですがね……。その元凶たる私が言う事ではありませんが……」
前の世界では敵対関係の筆頭だった魔王と魔王秘書は、こっちの世界でも同じようにパートナーとして共に歩む勇者と魔導師の後ろ姿に忘れ得ぬ憧憬を感じる。
かつて憎悪のままに世界を滅ぼそうとしたはずの自分が憧れた、平和な世界での男と女が仲良く笑いあう日常。
『だったら……そうすりゃ良かったじゃねーか……意地張らずによ……』
魔王だった者はかつて自分たちを滅ぼした者に最後に言われたそんな言葉が今の自分達を作っていて、それを教えてくれた二人がこれから始まろうとしている。
そんな順番的に奇妙な光景に
しかし彼の穏やかな朝は一緒に立ち並ぶ、元魔王秘書である彼女の言葉によって一変する。
「あの……魔王様…………少々お話と言いますか……ご報告がございまして……」
「……? どうしました? 最近ではそう言う畏まり方も珍しいですが……」
「その……何といいますか…………先月からですね……………………来ないんです」
「…………………………え?」
「その…………あの…………出来ちゃったようでして……」
「……………………」
・
・
・
……その日の放課後…………血相を変えた名倉先生が吉沢先生を伴ってダッシュで学校を出て行ったのはその後伝説となった。
在任中の教師同士が~~と言うのももちろんではあるが、たまたま二人の会話を耳にした生徒が面白おかしく話を広めたのが原因で……。
「早く行かねば!! 病院!? 市役所!? いやまずは両家のご両親に殴られないと!! いや新居も必要だしその前に……しまった! プロポーズもしとらんかった!!」
「落ち着いてください大丈夫ですから魔王様! そんなに急がなくても……」
「は!? そうだ! 母体は丁重に扱わねばイカン!! 前から考えても初の懐妊だというのに……くおおお気が利かん自分が恨めしい!!」
「口調が戻ってますってば! 落ち着いて下さい!!」
堅物だと思われていた二人の出来婚と、何時もとはまるで逆の立ち位置っぽい話し方が思春期男女の妄想を刺激したとかしないとか……。
*
いくらバカップル思考全開とは言え、さすがに教室まで腕を組んで~という事はない。
しかしまあ……一定数の知り合いには確実に見られただろうし、何よりも天音の事をモノにしようとか思っていた輩にとってそれは面白い事実ではないだろう。
俺はある種の覚悟を決めて教室のドアを開けた。
瞬間に俺に掴みかかって来て恫喝紛いに肩を組み、胸倉をつかんでくる物騒な野郎どもが……。
「おう、ちょっくら面かせや色男!」
「休み明け早々にリア充全開な登校するとは良い度胸だな……」
「朝っぱらから見せつけやがって……裏切り者が」
絡んできたのはいつもの工藤、武田、浜中のオタク仲間たち……って。
「何でイノイチで絡んでくんのがお前らなんだよ!?」
先週から休んでいたみたいだから今日もいないのか? とか一瞬思ったが……友人共の向こう側に予想した人物は既に登校して、椅子に座っていた。
チャラ男たちの筆頭格、この前まで彼氏面で天音にしつこく絡んでいた弓一……てっきり恫喝してくるか、じゃなければ恨みと殺意の籠った瞳で睨んでいるのかと思いきや……特に興味も無さそうに明後日の方を頬杖ついて見ていた。
不意に俺と目があったけど……興味無さげに“シッシッ”と面倒そうに手を払う動作をしたのみだった。
まるで“勝手によろしくやってくれ”とで言いたげな……。
校内で一番の面倒事と思っていた輩が全く無反応なのに対して、むしろ味方側だった友人たちの方が鬱陶しい!
「おうおう! まさかダンマリ決め込むつもりじゃね~だろな~!?」
「美人幼馴染とラブい空気を醸し出すなど、同好の士として垂涎の状況を甘受したからには報告義務が発生する……」
「あ……あのなぁ……」
迫り来る友人たちとて本気で妬みから言っているワケじゃ無いし、裏側には祝福がある事も……まあ分かる。
ただそれ以上にコイツ等は求めている……いつものように“エロ話”を……。
しかしギラつく目で恫喝紛いに詰め寄る連中を諫めたのは意外な人物だった。
「お待ちなさい皆さん。喩え友人とは言え踏み込むべからず領域と言う物はありますの事よ? お二人の現状が気になるとはいえ、それでは余りに不躾ではありませぬか?」
「む……」
「いや神威さん……これはハッキリさせておくべき事柄であって」
そう言いつつ眼鏡をキラリと光らせて、腕組み状態に高らかに言うのは社長令嬢であり三女神の三女にして問題児、神威愛梨その人。
そもそも誰よりもその領域に踏み込んで説教されたのはアンタじゃ……。
止めてくれたのはありがたいけど威厳ある物言い……と言うか何気に胡散臭いセリフが嫌な予感を誘う。
そして……その予感は神威さんが手にしていたポスターを広げて見せた事で当たってしまう。
「なるほど……確かに友人の交友関係を心配するのは間違っている事ではございませぬ。ここは不肖私が友人代表として代弁させていただきとうございます」
そのポスターはとある温泉ホテルの広告であったのだが……。
「「「うおおおおおおお!!」」」
「ぶふ!? うおい神威さん! それ!!」
「きゃああああカムちょん! なんてモノ広げて!!」
それはホテルの休憩所で浴衣姿で二人で眠る俺と天音の写真……。
バイトとか演技とか、言いようは色々あるけどそのポスターの俺たちは腕枕状態の完全恋人状態……。
そんなもんを見せられて友人共が騒がないワケも無く……。
「まじか夢次! この写真……現行犯にも程があるぞ!!」
「満足げなお前にゆだね切った神崎さんの表情……絶対事後だろ事後!!」
「貴様何があった!? 体験談をつまびらかに全て明かすのだ!!」
火に油どころでは無い、ガソリンと爆薬を放り込みやがったこの人!?
しかも神威さんはそれを見せた上で“アラアラ”という顔を作った。
「あらら、コレはしくじりましたね。私は事実を伝える事で鎮静化するツモリでしたのに」
「百パーこうなる事分かってただろアンタ!!」
「…………カムちょん……後で説教だからね」
*
友人たちにもみくちゃにされる夢次と、神威を追い回す天音……それぞれがそれぞれの方法で交際を始めた二人を祝福するのを神楽百恵は苦笑しながら見ていた。
彼女も事前に神威がやろうとしていた事を知っていたから同罪とも言えなくも無いけど、安全圏から守護神様と一緒に……。
『あのお二人が今までお付き合いしていなかったという事の方が意外でしたです。あれほどお互いの想いが分かりやすい方々ですのに』
稲荷神のコノハの感想は、異界も含めた世界共通の認識……しかも神であるがゆえ記憶改竄を免れている彼女はあの二人が真に『番』となっていた事すら知っている。
だからこそ……今まで付き合っていなかったと言われてもピンと来ないのだった。
そんな彼女を優しく撫でて、神楽はニッと笑った。
「それも含めて楽しんでんじゃないの? 意識的にか無意識なのかは知った事じゃないけどね。コノハちゃんも恋愛に関してアレは参考にしない方が良いよ~」
『何となくですが……それは分かる気がするです』
*
その日の学校生活はおおむね祝福されるか揶揄われるかの二択。
俺と天音が晴れて交際、友人たちとのバカ話の内容が拡散した影響かクラスメイト以外にもそんな感じで一日が過ぎて行った。
一々恥ずかしいもんでもあったが、それは決して不快な一日じゃなく人生において貴重な日だったと思う。
幼馴染で昔から好きだった女の子が彼女になった……それだけで先週まで何でもなかった学校生活が一変する……まるで夢のような現実だ。
そう、夢じゃ無い現実……自分にとって都合の良い夢を見ている気分だけど、コレは俺が自分で行動した結果天音が答えてくれたからこそ訪れた現実なのだ。
そう考えた時……俺は最近必ず持ち歩いている『夢の本』について考えてしまう。
疎遠だった俺と天音を再び繋いでくれた、あらゆる夢を操作する事の出来る不思議な本。
この本が見たい夢を見れる『明晰夢』を見せて、他人と同じ夢を見る『共有夢』で天音を巻き込んだ……俺にとっては実に都合の良い偶然も重なっての今なのだ。
ハッキリ言えば俺はこの『夢の本』には多大な感謝をしている。
天音との事は勿論だが、何ゆえにか本能的にそれ以上の事も世話になった気がして……。
一日が終わり帰りも待ち合わせて天音と一緒に夕日に染まる街並みを歩く中、俺は一つの考えを天音に告げる事にする。
「なあ天音……ちょっと相談があるんだけど」
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