第百三十七話 誰かが言った、女子は他人のコイバナが最大の娯楽とか……
全身を真っ赤っかに染め上げた彼女の顔からは蒸気が立ち上り、そのまま火を噴きそうなほどの羞恥心を露にする。
まあ無理もない……誰も知り合いのいない場所でノリノリで魔王様ごっこに興じていたのにバリバリの知り合いにそれを見られたのだから。
しかし俺がそう自己完結しようとすると、アマネは俺の考えを読んだかのように俺の肩を叩いて首を横に振る。
「ユメジ、今貴方が思ったの……多分違うわ。あの娘がそんな普通の女子高生っぽい発想であったなら、どれだけ楽だった事か……」
「……え?」
「今後を考えて覚えて置いた方が良い……神威愛梨に黒歴史という概念は存在しない」
何やら恐ろし気に言うアマネの顔には何かを達観したようなモノが見え隠れしている。
……そう言えば前にもそんな事を言ってたような……神威愛梨は黒歴史を笑って受け入れるメンタルの持ち主とか。
「た、たたたタイム! ゴメン天音さん、一端タイムね!! エルドワ! エルドワのみんな~! 集合~、ちょっと集合~~~~!!」
そうしていると真っ赤なままカムイさんは演出に奔走していた自身の親衛隊、エルドワの連中を集合させる。
筋肉担当のドワーフ2名にイケメン担当エルフが2名、そして男装エルフの1名が今まで潜んでいた暗闇から姿を現した。
「なんだよ……本番中は役者がぶっ倒れてもステージ優先って言ったのはアイリじゃん」
「珍しいですね。貴女が演出の最中に我々を集合させるのも……」
「ちょ、ちょっと衝撃的過ぎてそれどころじゃ無くて……まあその二人なら大丈夫、分かってる方の知り合いだから……」
ゾロゾロと壇上に集まる計五人の異種族混合の男女が集合するのは、さながらタイム中に指示を出す監督と高校球児の如く。
そんな中カムイさんは仲間たちに興味津々と質問をする。
「ねえねえ! あの二人が融合魔法をバトリング中にずっと使っていたって言ってたよね? 喩え魔法に長けたエルフであって一定条件をクリアするのが困難だから使い手は少なくて伝説的な魔法だって!!」
「あ? ああそうだけど……え? 知り合いだったの?」
「融合魔法は今は我らが王女アンジェリア様と婚約者のマルロス殿が偶発的に起こした事があり奇跡と言われたくらいに難しい魔法なのですが……アイリの友人なら魔法の無い世界なのですよね?」
「そうなんですよ……同郷のお友達なんですけど……」
ヒソヒソと話しつつ六人の男女がチラッとこっちを見て……再び連中だけで話し始める。
……なんだその女子会的なノリは。
「え……ウソでしょ? アイリのお友達なら…………え!? もしかして結構年上だとか?」
「いいえ、私と同い年です」
「同い年!? 確かアイリの歳って……」
「16…………」
「「「「「うわ……」」」」」
またもや一斉にこっちを見るエルドワの皆様……その何を思ったのか“ヤダ”みたいな口元に手を置いた興味津々の目を止めなさい。
「融合魔法は一種の火事場の馬鹿力……同じ敵を倒す時にみんなが心を一つに~って時に偶発的に起きるかもしれないってくらい“心を一致させる”必要がある。日常的に常時使い続けると言うのは……正直大分色々と分かり合った関係じゃないと……」
「王女たちも発動した時は“まさか!?”って疑われたくらいなのに」
「そうだよな……あの時はアスラル王様も『もう手を出したのか!?』とマルロス王子に戦慄していたよな」
ゴクリ……男装エルフがメチャメチャ興味津々の様子で言った言葉にカムイさんをふくむ全員が息を飲み込んだ。
「じゅ、16歳同士で? ……すげぇ」
「い、いやいやいや! 確かに、確かにあの二人は私がこっちに召喚される直前にはイイ感じに告白寸前~って状況でしたけど…………にしてもたった半年ですよ!? 身も心も分かり合って食い合って正の感情も負の感情も全て互いのモノにしあった関係じゃ無ければ不可能だってナナリーさんも……」
状況についていけていないのか真っ赤になったままエキサイトするカムイさんである。
……そうやって他人から言われると何とも気恥ずかしいけど、俺たちに今の状態は半年で築かれたものではないけどな。
カムイさん的には“自分と同じ時間に召喚されて俺たちも半年経過している”と考えているのだろうけど……。
そんな中、一番寡黙だった筋肉隆々なドワーフが口を開いた。
「だがアイリよ……考えてみろ。半年……だぞ」
「!?」
「召喚直前がどういう状況だったか……この中では君しか知らん事だが……告白寸前まで行った男と女が知らない土地で二人っきりで半年……だぞ?」
「…………」
「君の方が想像出来るんじゃね~か? 告白の結果は? そしてその後、そいつらがどうなったか……。事実自在に融合魔法を使ってんだぞ?」
タラ……その瞬間、筋肉ドワーフの言葉に動きを止めたアイリさんの鼻から熱き血潮が噴き出した。
「おわ!? ハンカチハンカチ……」
「ああもう興奮しすぎ……ヒールヒール!」
男装エルフとイケメンエルフが鼻血を噴き出したカムイさんの治療に当たるが、ドワーフの言葉で色々刺激されたらしい彼女の興奮は止まらないようで……。
「そ、それはもう……ヤッちゃったって事でしょうか?」
魔王としても、そして女子高生としてもあまり適切ではない事を口走るカムイさんだが……ドワーフは神妙な顔で首を横に振る。
「……それくらいの関係で融合魔法なんざ使えね~よ。十中八九“まくっちゃった”ほうだろうな……そうなると若さは武器であり凶器になるし」
「まくっちゃ…………凶器!?」
ブシ……折角エルフたちが治療を施したのに、カムイさんの鼻からさっきよりも激しい血潮が噴出される。
「わわわわ!? ハイヒール! ハイヒール!!」
「バカ! 止血できてないのに更に興奮させるな!!」
「いや、しかしウソを言うワケにも……」
その後カムイさんの止血作業に数分かかり……戦闘したワケでも無いのに血塗れになった彼女は何とか興奮を抑えようと深呼吸をする。
そんな彼女に二度ほど致命傷を負わせたドワーフが決まりが悪そうに頬を掻いた。
「……どっちにしろ今の状況じゃ予想しか出来ん。色々と本人たちに直接聞くしかないのではないか?」
「そ、そうですね……確かにその通りです。もしかしたら二人はまだ清いままなのかもしれませんから……」
そんな丸聞こえのやり取りをしてエルドワの連中は再び散開、壇上に一人残ったカムイさんは取り繕ったように鼻血を拭いてから咳ばらいを一つして……彼女の体格には大きすぎるマントをバサリと翻した。
「フハハハ待たせたな勇者たち! そして久しいな、我が同郷の盟友たちよ! このような特異な場所で再会する事になるとは数奇なる運命……いや悲劇的な物語である!!」
「うお! え!? もしかして続けるのソレ!?」
「だから言ったでしょ? この娘はこういうヤツなの。“イタい”なんて印象は盛り上がるスパイス、ご褒美にしかならないから……」
「……マジでメンタル最強すぎだろ」
羞恥に震えて逃げ出すのか、もしくは取り繕って普段の口調に戻るかと思っていたのにカムイさんはさっきと同じように魔王っぽい態度に戻った。
いや……むしろ俺達だと分かったから、より悪ふざけが酷くなった気も……。
その中二っぽさを意図的に演出する額に手を当てるポーズを止めなさい。
「ときに我が盟友にして姉上、神崎天音殿……一応聞いておきたいが、そちらが召喚されたのは我と同じ半年前なのだろうか? 多分召喚されたのは我と同じ時間帯であると推察するが……」
しかし唐突に質問された内容は至って普通……しかしアマネはそんな彼女に戸惑う事なく口を開く。
まるで“いつもの事”とばかりに。
「あ~~まあその通りよ。私たちは同じ時間で同時に召喚されて、召喚を実行した国の術式が欠陥品だった事でカグちゃんとカムちょんは違う場所に飛ばされちゃったけど」
「え!? 神楽さんも来てたんですか!! だだだだだ大丈夫なんですか日本に比べて危険の多いこの世界で!?」
この場にいない神楽さんの話を聞いた途端に狼狽して魔王演技を忘れてしまうカムイさんに、アマネは苦笑を漏らした。
「心配しなくて大丈夫よ。カグちゃんは既に発見して日本に帰還してるから……五体満足」
「そ、そうなのですか……」
あからさまにホッとした顔になるカムイさん……何だかんだこういうところが彼女たち3人が親友であり続けている理由なんだろうな~と少しホッコリする。
「って帰還!? 日本に帰る手段があるって事なんですか!? エルフの魔導をもってしても帰還させる魔法陣を編み出すのは至難の業って聞いていたのに!?」
親友の無事で流しかけた情報に気が付きさっきとは違う驚きを露にするカムイさん。
……しかしこの娘、普段は大人しめの文学少女風なのにリアクションがデカいね。
「多少特殊なツテがあってね……無作為に召喚された日本人は全員回収されてるのさ。ちなみに回収係は喫茶ソードマウンテンの看板娘、我らがスズ姉がライダースーツに自慢の単車で颯爽と攫って行ってるとこだ」
「あ……もしかしてシャンガリア国内で流れてた“異世界人をさらう紅い駿馬に乗った黒衣の死神”って……」
どうやら彼女の情報収集ではスズ姉の功績も伝わっていたようで、納得した彼女は古典的作法のように手を打った。
そして彼女は小さく「そうですか……帰れるんですね」とどこかホッとしたような呟きを漏らした。
自分が帰れるかどうかも分からない世界と考えていたからこそ介入してしまった彼女にしてみれば、帰れると言うのは何よりもの吉報になったのだろう。
これは……もしかして余計な説教や戦闘は必要ないのか? 俺は彼女の雰囲気にそんな“甘い考え”が頭を過った。
しかし……その考えは彼女が発した次の質問に覆される事になる。
「……ちなみにお二人はこの半年で、どこまで行ったのでしょう?」
「…………え?」
会話の中で急に入れられた不躾な質問に、俺は一瞬どう答えれば良いのか迷う。
この半年……と言うのはあくまでカムイさんの体感時間であり、時間軸のズレている日本を行き来した俺とアマネにとっては一日、もしくは数時間の事でしかない。
俺たちの体感時間と“高校生である”方の自分たちを考えれば答えは一つ『まだ告白すらしていない』である。
しかし……それが『夢葬の勇者』と『無忘却の魔導師」としてだと話が大きく変わってしまう。
さっき連中が円陣組んで話していたように、俺たちは融合魔法を使いこなすほど“壊れた”夫婦だった記憶がある。
そっちの記憶に従うとすると、俺たちどこまで行ったかと言うよりは……。
「そ……そりゃ………色々と……その……」
「どこまでって…………ねえ?」
アマネも似たような心境のようで俺たちはチラチラ目配せをしながら言葉に詰まってしまう。
しかしそんな俺たちのやり取りがカムイさんの……いや魔王『
プシュ…………
またもや乙女の鼻から熱き血潮を噴出させたカムイさん……裏方に戻っていたエルドワの男装麗人が慌てて背後からヒールをかけに飛び出して来るが、彼女は興奮冷めやらぬ様子で呟いた。
「ゆ…………許せない……」
「……え?」
「疎遠な幼馴染同士が友人関係にまで修復……しかし年頃の男女でそれだけで終わるはずがない。距離感に、そして自身の感情に迷いつつヘタレつつ……ジレジレの関係を経ていよいよもって男から告白……そこまで計画通りに進んでいたと言うのに……」
「あの……ちょっとカムちょん?」
さすがに心配になってきてアマネが呼びかけるが、それを切っ掛けにしてカムイさんは止まらない血流をそのままに怒りの咆哮を上げた。
「告白から少しの間は清い交際をする幼馴染カップル! しかし“そんなつもり無いのに~”と言いつつ夜に窓からお誘いモード全開で現れる彼女に我慢の限界を迎えてしまう彼氏!! そして熱すぎる夜を過ごした二人が翌朝気まずそうに、しかし明らかに違う空気を醸し出しつつ一緒に登校するのを敏感に察知した我々親友が冷やかしまくって根掘り葉掘り聞いて大いに揶揄うという崇高にして大いなる野望を……召喚魔法などという下らぬ魔法で邪魔しおって………………許さん! 許さんぞおお!! シャンガリア王国め!!」
「もしも~しカムイさん?」
「怒りの方向が……その……」
「やはりシャンガリア王国はこの世界にとって、そして我が野望にとっての害悪以外の何物でもない!! このまま放置するのは『小夢魔』の名が廃ると言う物!!」
異世界の事情を全く無視した個人的な……しかもあまり趣味の良くない感じの怒り方に何と言って良いのか分からない。
これについてはさっきまで同意的だたエルドワの連中も『アイリさん、それはちょっと……』って顔になってしまっていた。
「同郷の盟友『神崎天音』、そしてその伴侶たる『天地夢次』…………我はまだ帰還するわけには行かぬ!! 諸悪の根源たるシャンガリア王国、愚王カルロスを退治ぬ限り……我にはまだやり残した事があるのだああああああ!!」
一気に漂い出す物凄い小物感……さっきまでは何とな~く同調できていたのも否めなかったが、この発言に対しては……。
「さすがにコレは説教で良いよな?」
「そうね……さすがにそんな○○漫画展開を期待されてたと言われるのは……ね」
「あながち的外れでもないのが腹立つけど……」
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