第百三十九話 パクリ演出合戦(笑)

『それではバトリング準決勝、第5回戦目! レディイイイイイイイ、ゴオオオオオ!!』


 ブシュウウウウウウウウウ…………

 アナウンスによる試合開始の合図直後、相対するアクス、じゃなくグレートアックススーパーXから大量の煙が噴出される。

 一瞬何かの状態異常のガスか? と思ったが……。


「……睡眠、催涙、毒ガス系のガスでは無さそうだな」

「魔力的な力も一切感じないね。どっちみち水人形の私たちじゃ状態異常なんて起こりようも無いけど……でも何で赤色?」


 そう、吐き出されて行く煙は赤っぽい。

 日本で言えば発煙筒の煙とか花火とか、あるいは戦隊ヒーローの定番演出のヤツとかそんな感じの色合いである。

 そして一番妙なのは煙の濃度がそれ程濃くないって所だ。

 攻撃前にこう言った煙を出す……同じ戦場で自らも煙に巻かれる事を前提にした意味合いで一番多いのは『煙幕』だろう。

 レーダーなど無い状況で相手の目視を遮り攻撃するのは、実戦では有効な手段と言える。

 ……が、そもそもアイツらは最初から自白している通りに複雑で細かい動きなど出来ないだろうし、何より思うのは“それはらしくない”という事だ。

 さっき初対面だと言うのにそんなバカみたいな矜持をヤツらは持っているハズと確信してしまっていた。

 そして……そんな期待に応えるようにグレートアックススーパーXが“ガキン”とオーバーなアクションすると、両肩が開いて巨大なファン……扇風機が現れた。

 ビレッジ組操縦士ドワーフは大迫力で“カッ”と目を見開いて声を張り上げた。


「耐久性の問題で喩え勝利しても一回戦で自壊してしまう機体……奇跡的に準決勝まで来る事が出来たが、おそらくこれがワシらにとっての最期の一撃となろう!!」


 うわ~~い、言っちゃったよこの人、自分達は技を出すだけで自壊する……つまりこの攻撃を避けるだけでもお前らは勝てるぞ……って。


「ゆくぞ! 今大会我らの最期の一撃!! 超煙陣、サ、イ、ク、ローーーーーーン!!」


 そして両肩のファンが勢いよく回転を始めるとコロシアム内に強風が起こりだす。

 そう強風……決して吹っ飛ばされる風の魔法とかそんな勢いではなく、アニメの『ルストなんちゃら』みたいに全てをなぎ倒す暴風でもなく、煙が意図した形に動くほどの強風。


「おおう……何かもう色々とアウトだそれ!」

「一応ネーミングでオリジナルに気を使っているつもりなのかしら……」 


 花火大会で上空に立ち込める煙などに重宝しそうな機能だな~とか少し思ったが、強風にあおられた赤い煙が徐々に俺たちの『ステゴロ』を一直線に包む。

 まるでこれから放たれる必殺技の為に敵を拘束、動けなくしたとばかりに……。


「こ、これは……この煙は!?」

「は、は、は! 分かるか!? この煙幕の渦の意味が貴様に分かるかああああ!?」

「ふふふ、分かるわよね、分かってくれるわよね!? 最期の一撃で脱出不能なこの雰囲気!! 分からないハズは無いわよね~~~~~!?」


 ……必死に上から言っている風ではあるが、ヤツらから漂うのは“お願い分かって!!”という懇願である。

 多分前も、というか毎回コイツ等と対戦した連中はこうだったんだろうな。

 ハッキリ言えば煙が包み込んでいても普通に動けるし行動に制限もかかっていない……この煙は本当にただの演出である。

 どう考えてもこれからヤツらはこの煙の渦の中突っ込んでくるのだろうけど、煙の渦を無視して横に避ければこの準決勝はアッサリ終了するはずだ。

 しかし……何というか………


「何か……このまま避けたら負けな気分にさせられるのはなんでなんだろうな~」

「あはは、まあ仕方ないじゃない? 私も貴方もクール系なキャラじゃないし……それに」

「それに?」

「幾ら技術で凄かろうと、私たちが“この分野”の愛着で新参者に負けるワケには行かないじゃない?」


 あっけらかんと笑うアマネの笑顔は好戦的であり、実に可愛らしく賢くない。

 しかし、まあその通りではあるか……俺たちは色々と頭の悪い方向のバカップル兼バカ夫婦……こういう展開嫌いじゃない!!

 俺は『ステゴロ』をドッシリと渦の中心で相手が突っ込んでくるのを待ち構える姿勢を取らせて手をクイっと挑発……ニヤリと笑ってやる。

 その様に一番盛り上がるのはアナウンスと観客、俺たちが真っ向から受けて立つポーズを取った瞬間コロシアム全体から地鳴りのような歓声が響き渡る。


ドオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

『受けたアアアア! 受けやがったアアアアア何というバカヤロウ!! 勝手に自壊するであろう事は最早明白なのに受けて立つ!! しかしそんなバカこそ俺たちの盟友!! ようこそマブダチよおおおお!!』


 う~むアナウンスも観客もバカばっかりである。

 そしてそんな中、対戦相手の二人は一瞬微笑を浮かべて確かに言った。


 ありがとう……と。


 いや……そんな感動的な場面じゃないと思うけど……。

 突っ込みを入れたいところだったが、グレートアックススーパーXが変形を始めてそれどころでも無くなった。

 両手を合わせて接合、変形……そして最終的に両腕を突き出す形で現れたのは巨大な、機体の半分ほどまでに肥大化したような一つのドリル!

 ……スパイクじゃなくドリルにしたのは技術的な問題か、それとも何かに配慮した結果なのだろうか?

 そして巨大ドリルが高速回転を始めると、回転と共に激しい炎が現れ出す。

 それは一回戦のビームライフルと同じ魔法による炎、さっきは属性無しの魔力のみのモノだったが今回のはしっかりと火属性のついた攻撃魔法である。

 おそらく向こうの魔力操作担当のエルフが得意とする属性魔法……電気じゃなかったのは単純に技術不足か、はたまた人材不足なのか……。

 やがて一つの巨大な火の玉となった回転ドリルが、派手な轟音を立てて煙幕の渦を一直線に突っ込んできた。


「とどめだぁ!! 超炎陣スパイラル!!」


 ネーミングはともかくとして、今彼らが持ちうる技術の粋を帰結して完成した必殺技は“アレ”を目指していたワリには別作品の必殺技に近く思える。

 なんというか勇〇王的な?

 まあ空は飛べないし、何と言っても機体ごと回転するのは無理があるからな……。

 小夢魔カムイさんの方針的に上映会は昔の作品から行っていたから、多分その作品は見た事無いだろうけど。

 しかし何だかんだと言いつつ……やはりこの演出は良い。

 今持ちうる技術を効率ではなく演出に全て注ぎ込んだその心意気……バカみたいな共感だけど、共感したからには返礼したくなる。

 俺は返礼の為に『夢の本』を開いてから後部座席のアマネに手を伸ばし、その手をアマネが握り返して頷き合った。


「演出には演出を……攻撃の魔力は全部拳のみに集中……」

「幻夢の炎……現世に至れ、我らが花道……炎で彩れ!!」


 夢の炎を現世に現す、それも俺たちの融合魔法……ただ大仰に言ってもこの魔法は攻撃力など一切ない見せかけだけの幻影、ハッキリ言って熱くもなんともない俺の夢の幻影をアマネの魔力で現出した本当に見た目だけの代物。

 そして発動の瞬間、俺は『ステゴロ』の背部装甲をパージさせる……直後に現れる美しく巨大な炎の翼がまるで“装甲を突き破って生えて来た”かのように見せる為に。

『ステゴロ』が必殺技をただ受ける側であると思っていた観客からは突然現れた巨大な翼にどよめきが起こる。


『な、なんだ! なんなんだあの炎の翼は!? 突如ステゴロが激しい炎に包まれまるでフェニックスのように!? しかし全く熱さは感じない??』


 炎には炎、演出には演出……ハッキリ言ってアマネの膨大な魔力であればこの炎に攻撃力を加えた本物にする事は可能だし、そっちの方が手っ取り早いだろう。

 だが、それは効率も耐久性も捨てて“魅せる”事を追及するヤツらに対して無粋。

 そして……俺たちが納得出来ない!!


 俺とアマネは前後の操縦席で手を握りあったまま、前方へ意味も無く突き出す。

 本当はワルツみたいに両手を組んでいきたいところだけど、構造上そこは妥協するしかなさそうだ。


「元ネタは知らないだろうけど、男女のペアで炎の必殺技とくれば……これしか思いつかんからなぁ……」


 そして幻影の、見せかけだけの炎の翼と共に『ステゴロ』も煙の渦を一直線に突撃する。

 

「行くぞ! 不死鳥は、炎の中から」

「「蘇る!!」」


 ドリルと炎が回転する轟音、幻影の不死鳥が上げる声、そして両者が突撃するエキゾースト音……すべての音が響くコロシアムの中、俺たちは互いに叫びながら嗤っていた。

 

「「ウオオオオオオオオ!!」」

「「ハアアアアアアア!!」」


 それはさながら深夜の飲み会のノリ、修学旅行の夜更かしのノリ、バカ同士によるバカみたいなぶつかり合い。

 そして遂にぶつかり合う両者の必殺技。


ゴガアアアアアアアアアァァァ!!


 真正面から煙幕の渦の中心でぶつかり合う必殺技。

 激突の瞬間にこれまでで最大の衝突音が響き渡りパワーが拮抗……いや瞬間的にドリルの先端が『ステゴロ』の拳に食い込んで“ビキリ”と音を立てる。

 しかしドワーフたちが一瞬ニヤリとするが、それはつかの間の優越感。

 元々耐久性に難があってこの技で自壊する事が確定していたグレートアックススーパーXには必殺技が拮抗した時に耐え切るほどの耐久性は勿論なく……合体機構の結合部分が踏ん張りに耐え切れず弾け飛んでしまった。

“バン”と音が足元からしたと思った時、彼らの機体は一気にガクンと態勢を崩した。


「ぬお!? こ、こんな盛り上がる瞬間に限界が!?」

「「今だあああああああああ!!」」

ゴガアアアアアア!!


 その瞬間を見逃す事は出来ないし、この瞬間にそう言う気遣いは彼らの矜持としても不要であろう。

 俺たちは熱血の叫びと共に限界を迎えた機体に更なる加速を加えて追撃……耐久性の限度を超えてしまった相手の機体は合体の接合部分から中心にアッサリとバラバラになって行く。

 そして俺たちがコロシアムの逆サイドの到達した時、彼らの機体グレートアックススーパーXは崩れた積み木のようにガラガラと崩れて行った。


 だが幻影の炎を消して『ステゴロ』が振り返った時、ガラクタの山と化した相手の機体から崩壊を免れるように何かが飛び出して来る。

 それは操縦席……だがプロペラが付けられた小型のジャイロになっていて、件のドワーフとエルフがしっかりと乗っている。

 ま、まさかアレは!?


「くそう! 今回は準決勝まで行けたと言うのに……覚えておれよ!!」

「この借りは必ず返すわよ『ステゴロ』めぇええええ!!」


 フラフラと飛びながら戦場から脱出していく小型ジャイロ、それは正に脱出を前提にしたやられる側の備え……しっかりとセリフを残して飛び去って行く様に俺は感動を禁じえなかった。


「マジか、まさか負ける側の美学まで…………捨て台詞までキッチリと」

「ある意味でプロ根性みたいなものを見せつけられたわね……。今回の勝負、私たちが完全に勝ったとは言い難いわ……」


 武力の勝敗では間違いないが、演出としてではヤツらは徹底していやがった。

 もしかしたら“愛着”でも上を行かれたかも……とか脳裏をよぎって少し悔しい気分にもなるな。


「ステゴロの勝利のポーズも考えとこうか? 最後に名乗るタイプの……」

「う~~ん、ステゴロだけだとこういう名乗りは語呂が悪いから……」


 何となく今回の勝ち方に納得が行かなくなった俺たちは呑気にそんなどうでも良い事を話していたが、今回ノリでこんな事をしたために非常に面倒臭い事をやらかしていた事にこの時はまだ気が付いていなかった。

 それが今後自分たちの首を絞める事になるとは知らずに……。


               *


『行ったアアアア!! 演出の鬼であるビレッジ組が脱出用ジャイロで逃走させる理想的な勝ち方!! 文句なし、文句なしで今回の必殺技対決は『ステゴロ』の勝利で決まりだアアアアアア!!』

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 ビレッジ組はとにかく合体や必殺技の演出にこだわるあまり実戦にはとことん向かない作りになってしまっているものの、逆のその矜持を分かるバカが多い状況でビレッジ組に対して勝利は出来ても『みんなが納得する勝ち方』をする事が難しい相手ではあった。

 大体はビレッジ組が耐久に限界を迎えて自壊するか、さもなくば相手が効率的な勝ち方をして場が白けるかのどちらか……。

 真っ正面から必殺技の演出をして観客が納得できる勝ち方をしたのは、おそらくバトリングが始まってから初めての事態であった。

 その情景を陰からコッソリ覗いていた小さな夢魔、本名神威愛梨は自身の眼鏡をクイッと上げて意図的に光らせて瞳が見えないよう、悪者に見えそうな角度を意識する。


「あの技は魔法とか以前に見た事がある人しか知らない代物、しかも本編じゃなくOVAすら見ないと知り得ないヤツ……。あのカップルが“知っている側の同郷”であるのは間違いないようね」


 そこまで言ってから、その可愛らしい顔に微笑を浮かべる。


「ふふふ……面白くなってきました! やっぱり異世界召喚にはライバル役が必要不可欠!! しかし! 誰かは分かりませんけど我が野望は止められませんよ~! 存分に相手してやりましょうじゃないですか!!」


 バサリとマントを翻してノリノリな彼女は、自分がほぼ魔王的な立ち位置でそれっぽいセリフを吐いている事に自覚が無かった。


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