第百二十七話 技術爆発の足音

 何とか手続きを終えた俺は恐る恐るドワーフたちの本拠地『大洞穴』に足を踏み入れた。

 事前情報で知っていたが実際目にすると中々圧巻で、名の通り大きな洞窟なのだがその大きさは一つの街がスッポリと入ってしまうくらいで『地底都市』と言われても納得できてしまいそうなくらい広く大きい。

 建物の上、洞窟の天井は多分数百メートルはあるんじゃないだろうか? その天井に数か所洞穴内部を照らす灯……多分光魔法が内部を照らしていて、外と変わらないくらいの明るさを保っている。

 そして特徴的なのは家々から伸びる配管……多分煙突の類なのだろうが、それは洞穴の外部へと繋がっていて、配管の出所からは絶え間なくカーンカーンと金属を叩く音が響き渡っている。

 古今東西、世界が違えどドワーフの最大の特徴はやっぱり“鍛冶職人”であるという事なんだろう。

 ただその事は全く意外でも何でもないのだが、俺は目の前で繰り広げられている光景に絶句するしかなかった。


「おうエルフの姉ちゃん! チーッとばかり風と雷の属性魔力を上げちゃくれねーかい?」

「しょうがないわね~これだからドワーフは……馬鹿力と地属性だけは凄いのに他の属性はてんでダメなんだから」

「ぬかせ! こんな場所で他の魔力なんざ用途が無かったんだからしゃーねーだろうが。別属性なんぞお前らじゃねーと使い方を知らねーんだからよ、四の五の言わねーでさっさと頼まぁ!!」

「ハイハイ、りょ~かい」


 敵対とまでは行かずとも別種族とは仲が悪いと言うのは“前の世界”でも“この世界”でもお決まりのパターン、大体にしてシャンガリアがアスラルに戦争を仕掛けたのも大部分はその辺が理由だ。

 だと言うのに目の前のエルフとドワーフは聞きようによっては種族の侮辱として取られかねないやり取りを冗談と割り切って“分かりにくく”褒め合っている。

 この街『大洞穴』にとってエルフたちは戦争で亡命してきた難民だ。

 物凄く穿った見方をすればドワーフたちにとっては厄介事でありお荷物、ここにいられるだけでも僥倖で、国によっては奴隷のような扱いをしていてもおかしくはない。

 勇者としても、そして日本人としてもそんな人道的で理性的な共生をする姿は素直に尊敬の念しか抱けない。

 世の全てがこんな風に共生関係になれるのならどれほど素晴らしい事なのかと……。 


 そう……素直に尊敬し、感動していたはずなのだ。

 そのドワーフとエルフが二人乗りの……何か重機のような『ロボット』に乗っているのでなければ……。


 ギュイイイイイ、ガガガガガガ、ウイイイイイイイイイイイン…………


「ミスリルとアダマンチウム10トンずつ持って来たぜ! やっぱ作業効率がちげぇなぁコイツがあるとよ~」

「無茶な運用しないでよ! 魔力は無尽蔵じゃないのよ!?」

「何言ってやがる。おめぇならこの程度朝飯前だろうが」

「ふん……当たり前でしょ?」 


 ドワーフの街並みの槌打つ響きに交じって聞こえてくる“機械的な駆動音”が洞穴内部だからか籠ってそこかしこから聞こえてくる。

 所狭しとドワーフたちが生活を営む中、主に市場と職人街に当たる通りを乗物が行きかう光景は豊洲市場で走り回る『ターレー』を彷彿させてくれる。

 ただ……ターレーには“腕”なんかついていないのだけど……。


「こりゃ~~~~思ったより遥かにヤベェぞ……」


 目視でだけで既に10台以上を見かけるほど実用化している……その事に冷や汗が止まらない。

 女神様たちが一番懸念しているのが『技術の爆発』だ。

 地球の歴史が示す通りどんな目的であっても新たな発明や発見は“新たな兵器開発”の合図でもある。

 元々鉱山の為に開発された“ダイナマイト”や空を飛びたいと発明された“飛行機”などは典型的な例だろう。

 さっきから目の前で動いているのはキャタピラやタイヤを駆使して動き、稼働するロボットアームに三つのツメが付いた物で、動き自体は日本でよく見る重機と大差無い。

 しかしだからと言ってまだ大丈夫と楽観する事は全くできない。

 こんな“別世界”の発想を持ち込まれたのは数か月前のハズ。

 地球で“今の重機”に至るまで一体何百年の月日を要したのかを考えると技術の進化速度が早すぎるのだ。

 いやもしかしたら既に凌駕しているのかも……ドワーフが制作・操縦、エルフがエネルギーである魔力を供給する重機……いや“機体”は具体的に言えばザブ〇グル風味のガン〇ンク、大きさはボト〇ズってところだろうか?

 科学と魔力の融合……聞こえは良いけど実際に目にすると冷や汗しか出てこない。


「異世界の技術を融合してロボット作って地球に攻め込む……みたいな話があったな~」


 とあるアニメ監督が『皆殺しの○○』と呼ばれた代表作が預言書のようにか思えず、頭が痛くなってくる。

 ただ……ここまでのスピードで汚染が進行している事が俺には少し疑問だった。


「新たな発想って門番は言ってたけど……一体そんなものをどうやって“共有”出来るっていうんだ?」


 最早俺の中で発想を植え付けた者は『神威愛梨』である事を全く疑っていなかった。

 だけどアマネに聞いていた人物像、そして最近友人として、そしてオタ友として話した限りでは技術介入には妙な部分がある。


「あの娘……ただのイケメン好きだからな~」


 この事は俺の悪友たちも共通の認識で、ロボット談義の際に当初の“リアル”と“スーパー”の対立に“キャラ”という概念をねじ込んで来た事からも言える。

 平たく言えば機体性能やら細かいディールについての知識は薄い。

 口で説明しようにも機構だの運用方法だのが伝えきれるとは到底思えないのだ。


 だが同時に聞き及んでいる神威さんのやらかす性格が脳裏をよぎる。

 去年の後夜祭で暗躍の末実現した“夜間サバイバルゲーム”では神威さんは企画した張本人のクセに初っ端で弾に当たってリタイア。

 にもかかわらず彼女は楽しそうにしていたという。


 何というか神威さんにはトップを取ろうとか、どうしても自分がなどといった“虚栄心”は余り無いようで“やりたい事”“見たい物”を提示して、金を出して好きにやらせるタイプに思える。

 それは製作者やイベンターにとっては神の如きパトロンだろうが、同時に超危険な劇薬感がハンパではない。

 何をもって自分の発想をドワーフたちに明示したのか……入り口で“発進シーンの再現”などをしていた連中の話を思い出すと、この辺が『女神のチート』が関わっていると予想するが…………。


「そもそも何で“プールから発進”とか分かるんだ? あんな昔のアニメをまるで見て来たみたいに……」


 考えても答えは出そうにない……。

 俺はひとまず『大洞穴』の内部を隈なく散策する事から始める事にした。

 門を通過した時から目に入っていた市場や職人街は主にドワーフたちで賑わっていて、通りがかるたびに商売人の景気の良い売り込みが聞えてくる。

 特に酒に関する店が多いのは……まあこれもドワーフの典型なのだろうな。

 所々武器を手にしたドワーフも見えるが、それは恐らく街を警備する憲兵なのだろう。

 中にはさっきの機体に乗っている連中と連携している者もいるようで、警備体制に機械技術が組み込まれ始めているのが見て取れる。

 ……全くの他人事なら楽しく見れるだろうけど。


 そんな事を考えつつ『大洞穴』を見て回ると奥に行くにつれて建物の規模が段々と大きくなって行き、そしてそんな場所には必ず衛兵の如く武装したドワーフが歩哨に立っている。

 多分あの辺が門番に言われていた立ち入り禁止区域に当たるんだろう。

 正面から冒険者としてドッグタグに魔力処理をされた俺は許可なく立ち入る事が出来ないから、その辺は嫁さん《アマネ》に任せる他ないけど。


「極秘開発された最新メカ何てのはこういう所にありそうだけどな…………ん?」


 ゴギン…… ガン! バキイイ…………


 その時、立ち入り禁止区域の一角、丁度目の前に通りがかった巨大な施設から何やら大きな物音……明らかに巨大な金属と金属がぶつかり合うような轟音が聞えて来た。

 それは日本だったら運動場とかスタジアムとか言いそうな外観なのだけれど、この世界においては多分通りが良いのは……。


「コロシアム……かな?」


 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 その瞬間俺の言葉を肯定するかのような大歓声が聞えて来た。

 何かの勝負が決したという事みたいだけど……この金属同士のぶつかる轟音は?


『おおおっと、コレで98人抜き!! 誰かヤツを止めれる操縦士はいないのであろうか!! 今もって難攻不落のエルフ操者“復讐鬼リベンジャーナナリー”を止められる猛者はいないのでしょうかああああああ!!』



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る