第八話 肖像権侵害と罪悪感を伴う依存性の高い夢

「…………」


 朝である。

 体を起こして周りを見渡すと良く知っている見知った風景、間違いなく俺の部屋で俺のベットで寝ていた事が分かるいつも通りの光景。

 そんな中、俺は現実を自覚すると同時に顔が、全身が羞恥で沸騰して行くのを実感する。

 なんというか、とんでもない夢を見てしまった!


「のおおおおおお!? なんつー夢を俺は!?」


 俺は頭を抱えてバタバタと悶えてしまう。

 昨夜の俺は本当に、本当~に軽い気持ちで、夜中に親に隠れてエロDVDを見るくらいの軽い気持ちでエロい夢を見たいと思って眠った。

 ……確かに希望していたようにエロい夢は見れた、しかしだ。


「あんなしっかりと、じっくりと深い愛で結ばれた関係の、重厚で甘酸っぱく初々しいエロシーンは望んでねぇ…………しかも相手が」


 最終決戦前の、人生最後の瞬間かもしれないと最愛の人と過ごす濃密な一週間の新婚生活という夢……ハッキリ言って枕元に置いた微エロなラブコメとは全く関係がない夢。


 しかもそんな相手が……。

 俺は窓から見える隣の天音の部屋に視線を向けて……居た堪れなくなって再び頭を抱えた。


「やばい……今日アイツの顔をまともに見れる気がしない……」


 俺は枕元に置いた本に目を向けて、この手の夢は見ないようにしなければ……という強固な決意を固めるのであった。





 …………数日後、早朝覚醒した俺は自分の横に幼馴染の寝顔が無い事にガッカリしつつ、現実を思い出して、自分の意志の薄弱さに情けなくなった。


「また……やっちまった……」


 本日で既に三回目……律儀に夢の中では三日目になっていたけど、俺は勝手に幼馴染を夢に登場させてゴニョゴニョする……アレな夢を罪悪感とは裏腹に全く止められていなかった。

 気が付いたら工藤から借りっぱなしの漫画を枕元に……この右手が勝手に、勝手にいいい!



 脳が蕩けそうになる。

 そんな表現をどこかで聞いた事はあるけれど、まさか自分が経験することになるとは思いもしなかった。

 最早どんな恋愛ドラマであってもここまでの幸福感を与えてくれる夢を俺に見せてくれることはないだろう……そう断言出来るほど俺はこの甘々な夢にやられていた。

 睡眠とセットになる『目覚め』が無かったら俺は二度と起きる事が無いだろうと確信できるほどに中毒性がやばかった。


 だって…………可愛すぎるのだ! 夢の中の新妻アマネが!!

 今まで一緒に過ごしていた彼女が新婚生活で魅せる一つ一つが……。

 一緒に買い物に行く時も、台所でエプロン姿の時も………………そして、何と言っても一緒のベットで寝る時など……。

 こんなもん、絶対に他人に知られるワケには行かない。

 詳細は省きまくるけど、妄想と欲望の赴くままに、そんな可愛い新妻に色々とやらかしまくった。

 それはもう……起床した時に自分でも引いて……罪悪感が連日割増しで襲い掛かってくるほどに……。

 連日俺は自分の快楽の為に、妄想的な夢の中とはいえ幼馴染の肖像権を汚しまくっているのだ……なのに、分かっているのに辞める事が出来ない。


「俺は……なんて最低な男なんだ……」


 そんな今夜こそは欲望に負けないようにと、硬く心に刻み込む俺が学校に向かって歩いていると、その先に件の俺の被害者(?)であるところの神崎天音の姿があった。

 その姿を視界に入れた瞬間、俺の心臓は犯罪者の如くドキリと跳ね上がった。

 当たり前だが現実の天音は高校生。

 夢のアマネに比べればわずかに若い……しかしそれでも俺の脳内フィルターは勝手に『夢の内容』と勝手にリンクさせて行く……。


 お、落ち着け……アレは夢じゃなく本物の天音だ。夢の内容とは全く関係のない本物の天音だ……。

 何食わぬ、そう何食わぬ顔で普通にさらっと挨拶すれば良いだけだ。


 ほとんど悪事が露見しないように必死になる犯罪者のような思考で、俺は前方を歩く天音に声を掛けた。


「おお、おはよう天音。今日は随分とゆっくりだな」


 平静を装っていった俺の言葉は思ったよりも普通に出たと思う。

 内心はいつもの3倍増しで鳴り響く心臓を抑えるのに必死なのだが……。


「ん? ……!?」


 しかし、振り返って俺に気が付いた天音は驚いたように息を飲むと、慌てて顔を逸らした。


「え? 天音……」

「おおおおおおおはよう!! じゃ、私は急いでるから! またね!!」


 俺が天音の反応に疑問に思っていると、天音は向こうを向いたまま、まくしたてるようにしゃべりだし、脱兎の如く駆け出してしまった。

 え? 何だろうこの反応……。



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