第115話 ゼスでも女子会

 千尋達はこの日もモニター設置と聖騎士との訓練に向かった。

 東と東南の広場への設置だ。

 広場のモニターは超巨大なモニターの為、魔石の数も多くて同調に時間がかかる。

 クリムゾンの隊員にはすでに連絡済みで、設置作業に協力してくれる事になっている。

 千尋達と幹部達は指示出しと魔石の組み込みやチューニングが仕事。

 昼過ぎには作業を終えてクリムゾン隊員達、幹部達には仕事に戻ってもらった。


 その後また聖騎士訓練場に向かい、映画に夢中になっている聖騎士達を見てイアンが膝から崩れ落ちたのはここだけの話。

 蒼真が一喝して訓練を開始したのだが、聖騎士も少し平和ボケしているのがよくわかった。

 聖騎士長であるバルトロが注意すべきではないかと思ったが、今は国王に呼ばれて王宮にいるとの事。

 今回の聖騎士強化について説明に行ったのだろう、今後また王宮に呼ばれる事になりそうだ。

 もともと国王にも謁見する予定だったので特に問題はない。

 この日の訓練ではまだ慣れない精霊の制御、もとい精霊の教育が中心だ。

 危険なので魔法陣は精霊がある程度制御できるまでお預けとなる。


 十六時まで聖騎士の訓練を見て朱王城に帰る事にした。






 朱王城に帰ってきた千尋達一行。

 サフラ達幹部はまだ帰って来ていないようだ。


「あ、皆さんお帰りなさい!」


「お帰りなさいませ!」


「おかえりー」


 と、元気よく立ち上がるミリーとハクア。

 朱雀は相変わらずお菓子を食べている。


「ちょっと! もしかしてハクア!? すっごく可愛いーーー!!」


 リゼがハクアに襲い掛かるかのように抱き着いた。

 ハクアはめちゃくちゃ怯えているがリゼは気にしない。


「手も治ったのね! 良かったわ! それにこの髪! この目! この装備! すっごく可愛いわよ!! なにこれ超欲しいー! ミリー、この子私にちょうだい!!」


「え、何言ってるんですかリゼさん! ハクアさんを危ない道に引き込まないでください!」


 リゼとミリーで問答を繰り返すが、千尋達もハクアの手が治った事に喜び、見た目が変わった事を褒めていた。


「そうだ! 千尋さん、蒼真さん。ハクアさんの魔法を見てあげてくれませんか? ちょっと特殊らしくて朱王はその知識がないらしいんですよ!」


「朱王さんが知らない事? 何属性魔法なの?」


「光属性魔法なんです。精霊魔法なんですが……」


「「「「光属性!?」」」」


 と驚くのも無理はない。

 未だかつて光属性魔法など存在を確認された事はなかったのだ。

 呼ばれたと思ったヴァルキリーが姿を現わす。

 だが蒼真だけはあまり驚いていない。


「千尋のエンは闇属性なんだろ? 光属性があってもおかしくはないと思うがな」


「ああ…… そういえばそうだった!」


《千尋…… 我は今少し悲しい。だが光属性か。朱雀のもう一つの属性だな》


[余計な事を言うでない]


 朱雀も人に聴こえない言葉を返す。


《ぬぅ。何故隠したいのかはわからぬがまぁよい。では光属性については朱雀が説明するのだ》


「仕方がないのぉ。その精霊はヴァルキリーという。光属性とは言っておるが、全く見えぬのじゃ。光の速度で撃ち出した魔力を熱として対象に与える、そうじゃな…… 朱王が言うところのレーザーみたいなものじゃ」


「え、嘘!? そんなの回避できないじゃん!!」


「防御も不可能じゃな。放たれる光魔法を超える魔力で耐えるしかないじゃろう。じゃがハクアに魔法のイメージが全く無いようじゃから熱量が低いんじゃ」


「レーザーって確か光を反射させて作るんだよね? 励起だったかな…… ハクアは撃ち出す時どうしてるの?」


「ヴァルキリーに魔力を渡すと私の意思で発射できます。ただ魔力が流れ出ているような感覚はありますけど」


 ハクアの説明だと励起、光の増幅はされていないのだろう。

 それでもレーザー光として撃ち出されるのはヴァルキリーの能力故か。

 ハクアのイメージをヴァルキリーの魔法に加えれば格段に威力は上がるだろう。


「そうだな…… 魔法はイメージだが、理論がわかるからといってレーザーは撃てるのか?」


「まぁ、これもレーザーだよね」


 と言ってレーザーポインターのように赤色のレーザー光を指先から出して見せる千尋。

 それを見た蒼真達も愕然とする。

 完全にイメージだけでレーザー光を出す千尋はやはり異常だ。

 赤から青、緑と次々色を変えて見せるのも、何故できるのかわからない。


「はぁ…… やっぱり千尋よね……」


「千尋だしな……」


「千尋さんすごいですね……」


「千尋さんは何者ですか!?」


「変人です!」


「誰がだっ!?」


 まぁ千尋のおかげで理論が無くても光魔法も何とかなりそうだ。

 良かったとしておこう。

 もうこの際だからハクアには千尋のイメージを叩き込んだ方が早い気がする。

 理論とかどうでもよくなってきた蒼真だった。

 とはいえ理論があればその分威力もあがるのだが。


「じゃあイメージの魔石を作っておくねー」


 ハクアの魔法は千尋に全て任せる事にした。






 お風呂や食事、映画鑑賞を終えて時刻は二十一時。

 リゼの部屋に集まるのはミリーとアイリ、ハクア。

 そしてガネットとデイジーの計六人。


「さて、皆んなに集まってもらったのは他でもないわ。女子会を開催するわよ!」


「またですか…… リゼさんは相変わらず好きですねぇ」


「何を言ってるのよ。ハクアにもちゃんと聞かないといけないでしょ!?」


「何をでしょうか?」


 首を傾げるハクア。

 ガネットとデイジーは苦笑い。


「もちろんハクアの好きな人よ! いるんでしょ? 誰なの!?」


「えぇ!? こ、答えなくてはいけないんですか!?」


「やっぱりいるのね!? 誰!? 誰なの!?」


 ハクアは自爆した事に気付いて頬を赤くする。

 真っ白な肌のハクアも恥ずかしいと赤みが出るようだ。


「言えませんよぉ……」


 恥ずかしそうにするハクアを見て嬉しそうなリゼ。

 ハクアにジリジリとにじり寄る。


「ガネットだってデイジーだって答えたのよ? さぁ、ハクアも白状しなさい!」


「え!? ガネットとデイジーは好き人がいるんですか!?」


 頬を赤くして顔を逸らすガネットとデイジー。

 前の日にリゼに迫られて答えてしまったのだ。


「ガネットは学校で先生をしているクラレンス。デイジーはお店のお客さんのオネシマスが好きなんだって!」


「わ、私はオネシマスさんが気になるなぁと思っているだけですよ!?」


「同じ事よ。気になるって事は意識してるって事だもの!」


 本当に嬉しそうに、楽しそうに話すリゼ。

 そして名前を聞いて首を傾げるハクア。


「オネシマス…… さんですか…… 本当にあの方がお好きなんですか? あの方はご結婚なさってますよ?」


「え、なに? どういう事!? 別の人じゃないの!? 私の言ってるオネシマスさんは青い髪をした目の下にホクロのあるすごく素敵な人よ!?」


 ハクアの表情を見て不安になるデイジー。


「はい、素敵かどうかは別として間違いなくその方です。ご結婚なさっていますし、肉屋のアグネスさんや、東区二番街にある宿屋のデビーさんにも薔薇の花束を渡して口説いているのを確認しました」


「バ、薔薇の花束…… を? 私の時と同じように…… 薔薇の花束を?」


「はい、デイジーを口説いているところを目撃しましたので、勝手ではありましたがどんな人物か調査させて頂きました」


 淡々と答えるハクアもなかなかの性格の持ち主だ。


「うおぉぉぉぉお!! あの男!! 私に囁いたあの言葉はなんだったのよぉぉお!?」


「【君じゃなきゃダメなんだ】ですか? アグネスさんとデビーさんにも同じ事を仰ってました。ちなみに奥様へのプロポーズの言葉は【君を泣かせる事は絶対にしない】でしたが、奥様はよく泣いているとご近所でも噂されているようです」


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 叫んだ後にがっくりと項垂れるデイジーだった。


「ガネット。クラレンスさんはとても良い方のようですよ?あの方の調査はしていませんが、学校でも子供達から人気の先生のようです」


「よ、よかった……」


 ハクアに名前を呼ばれた瞬間にビクリとしたガネットだが、クラレンスが人気と聞いてひとまず安心した。


「ふ…… ふふ…… ふふふ…… じゃあハクア…… あなたにも答えてもらいましょうか!」


 ハクアに迫るデイジーの笑顔がとても怖い。

 そんなデイジーを見てさすがのリゼも苦笑いしている。


「わ、私は…… そのー……」


「答えるのよ!」


 デイジーがとても怖い。


「サフラ…… お兄ちゃん……」


 言った瞬間さらに真っ赤になるハクア。

 恥ずかしさのあまりミリーに抱き着く。


「サフラねぇ…… 競争率高いわよー?」


「ねぇ……」


 ガネットだけでなくデイジーも冷静に考える。

 クリムゾン総隊長サフラ。

 実質クリムゾンのナンバー2ともなればその人気は計り知れない。

 白髪で緑色の目をした男前で、身長も朱王と同じくらいはあるだろうか。

 見た目だけでも女性人気が高そうだ。


「ねぇ、サフラはどんな男なの? ここ何日か一緒だけどまだよくわからないわよね」


「サフラはとても優しいんですよ。あんなにイケメンなのにかっこつけるような事しないし、困ってる人見るとすぐに助けに行くし!」


「それに総隊長という事もあってすごく強いみたいですよ!」


「本当はサフラお兄ちゃんの事も諦めてたんですけど…… 私はアルビノ種ですし、右手の指を失って不自由でしたし…… でも私のこの治った右手を見てサフラお兄ちゃんは誰よりも喜んでくれました。そして私を見て涙を流したんですよ。あの強くてかっこいいお兄ちゃんが! そしたらもう私も気持ちが抑えられなくて……」


「あのサフラが涙をねぇ……」


「想像がつかないわね……」


「ふむ。確かにサフラはいい男のようね。でもこっちにも蒼真というイケメンがいるわ!」


 何故かサフラに蒼真で張り合おうとするリゼ。


「じゃあ蒼真さんにサフラさんの事を聞いてみましょう! …… コール! …… あ、蒼真さんですか? え? 眠い? いや、それどころじゃないんですよ! 今から、え? 寝る? 待ってくださいよちょっと蒼真さん!? …… 切られちゃいました……」


「…… とにかく蒼真はイケメンなのよ!」


 よくわからないけど締めくくるリゼだった。


「じゃあ仕方ないので千尋さんに聞いてみましょう! …… コール! …… 千尋さんですか? え? リルフォンで通話したら本人以外あり得ない? あ、そうでした! …… はい。はい。はい、おやすみなさっ…… じゃなくてちょっとっ! うわぁ!?」


 テレビ通話に切り替えられ、ミリーの視野に千尋の姿が映し出された。

 グループ通話にしろというので切り替えると、ミリーのリルフォンを介して全員の脳内視野に千尋の姿が映し出される。


「どしたのー? 最近オレの出番少ないみたいだけど何か用?」


「何を言っているかわからないけど千尋、サフラはどんな人だかわかる?」


「…… ハクアの件か。えーとね、サフラは優しくてかっこいいねー! オレは戦った事ないけど、会ったばかりの頃の朱王さんを思わせるような強さだって蒼真が言ってたー。同じ条件なら今戦っても勝てるか怪しいみたいだよー」


「そ、そんなに強いの!? まぁわかったわ。ありがとう千尋っ!」


「うんっ、じゃあリゼもほどほどにねー。おやすみー」


 リルフォンを切る千尋。

 リゼは千尋を見れて嬉しそうな表情だ。


「千尋さんは男ですよね!? ガネットより可愛いじゃないですか!!」


「ちょっとデイジー!? あなたよりも可愛いかったわよ!!」


 と頬を捻り合う二人を放っておいてミリーは再びコールする。


「コール! …… 朱王! 少しサフラさんの事を聞きたいんですけど! …… えーと、グループ通話ですね?」


 朱王も女子会を察してグループ通話の指示を出す。


「ハクアでしょ? サフラはかっこいいからね! 競争率も高いよー? でも今のハクアなら…… ああ、そうじゃなかった。サフラの何から話そうかな…… えーとね、まずサフラのあの白い髪はハクアの為なんだ。ハクアが拐われたあの日からずっと考えて白髪にする事にしたんだって。自分が白髪でいい行いをしていれば周りの印象も良くなって、迫害がなくなるんじゃないかってね。子供の浅知恵とも言えるけどサフラは優しい子だなと思ったよ」


 朱王の話しを聞いて頬を赤らめるハクア。


「それとね、今でこそ強いサフラだけど、最初の頃は弱くていつも悔しそうにしてたね。ダンテなんかは天才肌だからどんどん強くなっていったんだけど、サフラは何も特筆するところがないような凡人だったんだよ。そんなサフラがたった二年で誰よりも強くなったんだから驚きだよねー」


 朱王が語るサフラは、クリムゾン幹部達が知るよりも遥かに努力をしていたようだ。

 毎日一緒にいたはずのガネットやデイジーですら気付かない、寝る間を惜しんでの努力。

 他の子達にはない心に刻んだ覚悟があるんだと朱王は言っていた。

【覚悟】、今のミリーならば理解のできる事だ。

 その覚悟こそがミリーの復元魔法に繋がるのだから。


 一通りサフラの話しを聞けたので通話を終了した。




「ところでクリムゾンには付き合ってる男女はいないの?」


 クリムゾンのメンバーは一番年上でもまだ二十歳前だ。

 恋もしたいお年頃の男女が大勢いるだろう。


「今のところクリムゾンに古くからいるメンバーではいないはずです。誰もが朱王様を史上としていましたので、恋愛意識は女性達にはほとんどありませんでしたね」


「男達はどうだったか知らないけど、朱王様の為に何かしようって私達ずっと頑張ってたものね」


「そうですね、みんな朱王様をお慕いしていましたけど、【朱王様の結婚相手は我々が決める】と、私がアフロディーテを立ち上げた時には誰もが叶わぬ想いと気付いていたのでしょう。いろいろと素敵なご結婚相手を組織のみんなで探したものです」


「ちょっと待ってください!! アフロディーテを立ち上げたってハクアさんがですか!?」


「はい、そうですよ? 【朱王様の結婚相手は我々が決める会】会長のハクアです。組織名としてアフロディーテと名乗っているんです」


「ふおぉお!! なんだか騙された気分ですよ!!」


「騙してなどおりません。ただ組織の事を語らなかっただけです。それに私はミリー様には感謝しておりましたよ? 誰かに執着する素振りを見せなかった朱王様が、自らお選びになった方ですから! そしてお会いして、少しの間ではありますが一緒にいて…… 今ではミリー様で良かったと心から思っております」


「そうですね。朱王様がミリー様とお付き合いを始めてから皆の意識が変わりました。私達も誰かを求めてもいいんだと。おかげで私はクラレンスに好意を持つようになりました」


「君達も幸せに生きて欲しい。朱王様がいつも言ってましたからね。私は…… 危うく不幸な目に合うところでしたけど…… ハクアから聞けて良かった……」


 デイジーは思い出して少し泣きそうだ。


「デイジーもきっといい人が見つかるわよ!」


 いつもの事だがまだまだ女子会は続くのだ。

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